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第2話

「恭司さ~んっ!やっぱり、……二人じゃ回りませんよぅ」  仕事終わりにアルバイトの『小西 壱(こにし はじめ)』がそう根を上げた。 「あ うん……そうだな」  かつての恋人の圭吾が居た三人の時でぎりぎり回していたオレ『谷 恭司(たに きょうじ)』の経営するこの店は、圭吾が出て行ってから慢性的な人手不足だった。 「僕もそろそろ休み欲しいです」  確かに、連日出てもらっていた。そろそろ限界だろう。  学生の本分としての学業に触りがあっても困る。 「……じゃあ なんか募集のチラシ作って立て看板にでも貼っといて。お疲れ……」 「えっ!ちょ  それでいいんですか!?」  それでいい……と口の中で呟きながら暗い街に出る。  以前は、店員募集の貼り紙を看板に貼るなんて、仮にも非日常を楽しんでもらう為のbar、『gender free』の雰囲気が壊れるから嫌だった。  ……でも、今ではそれもどうでも良かった。  ただただ惰性で生きてる、その感の否めない今の人生に、店のへこだわりは霧散した。 「……店、閉めようかな……」  ぽつりと言うも、返事が返る事はない。  その返事を返してくれるはずの相手を自分で追い出したと言うのに……  あの店は圭吾と初めて出会った場所で、一人アルバイトが辞めて募集を出したところに来たのが圭吾だった。  短い髪を明るい茶色に染めた彼は、まだその髪に馴れていないのかやたらと気にしているようで、どこか青臭いと言うか……幼い感のある顔に意思の強そうな目で真っ直ぐにこちらを見上げていた。  まだ 学生だったっけな……  アルバイトはした事がないと言う彼を雇うのを、実は躊躇した。  店名の『gender free』の名が表す通りの、この店には少し癖のある客が多く、扱いが難しかったからだ。  けれど……   けれどそんな彼を雇ったのは、その意思の強そうなその目をもう少し間近で見ていたかったから……

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