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第5話

 多分、……いや、絶対に圭吾がオレを受け入れたのは、タイミングと押しのせいだ。  弱った時につけ込むなんて……格好の悪い事をしたものだと、自嘲しながらマンションの扉を開けた。  独りの部屋はがらんとしていて、圭吾と同棲を始めるまでは当然だった筈なのに、改めて過ごさなくてはならなくなった孤独な部屋を、もて余してしまっていた。  閉じたまま開けてもいない部屋はかつて圭吾が使っていた部屋で……  荷物を送ってからはオレの空虚さの象徴のように何も置いていない。  散らかったリビング、  散乱した洗濯物、  暗いままの部屋、 「っ……―――ケイっ!!」  バサバサと傍らに荷物が落ちる。 「……っ 、っ!!……帰って来てくれっ!!」  背を丸めて蹲る。  汚れて埃の溜まった床に頭を擦り付けてそう願いを叫んだ。 「なんでもいいっ!!誰でもいいっ!!頼むからっ!……っ………頼むから……」  圭吾を傍に戻してくれと、自分で壊したあの生活をもう一度と、夜ごと繰り返した。  細い壱の目が弓のようになる。 「大丈夫ですか」  第一声がそれだ。  多分、こいつはいろいろな事に気付いていてワザとそう尋ねるのだろう。  語尾に疑問符がない感じがする。 「おはよう」 「おはようございます」  そうにっこり返し、開店の準備をしに外へと出て行った。  実際、気付く気付かないであれば客の中にも気づいている奴はいると思う。  突然店に出なくなった圭吾。  オレの目の下のクマ。  圭吾を狙っていた客がくすりと笑いを漏らしたのも見ていた。

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