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第8話

 ふわ……ふわ……とパーマのあてられたピンクの髪が揺れる。  そう、それに目をやっていればいい、気が紛れる。 「シマキは島の島に、キは木の木です。ケイトはー……」  指がテーブルの上をくねくねと動く。  多分、『計都』 「かなり遅くまでになるけど、大丈夫?」 「んー うん」 「……どうしてうちのアルバイトに?」 「ん――――バイト募集の紙を貼ろうとしてたから?今なら『ついさっき決まって』って言われないでしょ?」  ああ。  うん、  そう言いたい。 「……」  くるんと大きな猫の目が「ね?」と細められる。  圭吾のものより微かにふっくらとしているように見える頬にえくぼが現れる。 「えっ、と………」  壱をちらりと見る。  ジェスチャーで手を指し、次にオレを指差してきた。最後に中指を立ててびしっとポーズを決めると、テーブルを拭く動作に戻った。  オレが手を怪我したから、少しでも人手がいるのは分かる、分かるが……  ふわふわ……  その髪と同じようにその頭の中もふわふわな気がする。  雇うと……非常にまずい気がする。  気がするが……  ぱちりと瞬いた目に見詰められ、オレは着替えて貰うためにバックヤードへと彼を招いた。  初めて入る場所に、彼はぱちぱちと目を瞬かせ辺りをきょときょとと伺う。  ここにはロッカーと机と椅子くらいしか置いておらず、そんなに見回すほどの珍しさもない筈だ。  彼……計都の方を見ないように簡単に説明し、着替えを渡して店に戻ろうとした。 「あっ!テンチョーさん!」  どこか片言のようなその言葉にどっと何かが押し寄せる。

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