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第9話

「や、もうちょっと言い方ないかな?」 「じゃあテンチョ!着替え手伝ってください!」  ……は? 「俺、初めて着るからよくわかんないし!」  服なんて言っても、シャツにネクタイにエプロンに……所謂バーテンダースタイルだから、難しい事なんてない筈だ。  いや、それ以前の話だ。 「……やっぱり、他の人雇うから帰って」 「ええええ!?」  勢いよく脱いだシャツをぼとりと落として必要以上のリアクションを取る。 「服を着て、出口は分かるだろ?」 「やっやっちょ!ちょと待って!」  向けた背に、どんっ!と衝撃が走る。 「なぁ!ホント頼むよ!俺困ってるんだ!」  すがる温もりに、体が固まる。  圭吾に寄り添われた、まだ生々しい記憶がふつりと沸き起こった。 「金もないしさっ!!」 「はな……」  シャツを掴まれて引っ張られる感触。  潤んだ目に見上げられ、眩暈と錯覚が入り混じる。 「   っ」  鎖骨を浮かせたその肌が迫る。 「ぅ、あ  っ」  重なる圭吾の幻に視界が回った。 「恭司さん、そろそろ店開け――― 邪魔しました?」  開いた扉の音に後押しされて固まった体を動かそうとすると、ぎぎぎぎ……と音が聞こえた。  上半身裸のままの計都を引き離すと、ぶんぶんと首を振る。 「あ。そうですか?閉店まで待てます?君、早く服着て出ておいで。仕事教えるから」 「服の着方が分からないんだけど」  そう言う計都に何の疑問も抱かないのか、壱はてきぱきと計都のカーゴパンツを脱がして制服を着つけていく。 「はい。次からは自分でしなよ、じゃあ行こうか。恭司さん、治まりつかないんなら右のロッカーにいいネタ本入れてあるんでそれ使って下さい」  「いや ちょ……」と否定の言葉を絞り出そうとした頃には、二人は扉を閉めてとっくに店の方へと消えた後だった。 「…………」  ズル と体から力が抜ける。 「な、なんなんだ……」  締め付けられる胸の苦しさに喘ぐように息を吸った。  吸っても吸っても吸い足りない気分で、痛む胸を押さえて蹲る。 「―――― ケイ  」  彼は、圭吾に似過ぎている……

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