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第10話

 馴染みの客はまずそのフラミンゴカラーの頭に気を取られ、次に顔を見てびっくりしたような態度をとった。 「彼、マスターの趣味で雇ったの?」 「……ノーコメントで」  ぴくぴくっとこめかみが動く。  動いたと同時にカシャーンと派手にガラスの割れる音が響いた。 「………っ」  切って痛む手を思わず握り締めた。 「アレ、俺が来てから三個目だけどさ、トータルで何個目?」 「数えてません」  壱がうんざりしながらも、その面倒見の良さですぐに駆けつけて割れたグラスを片付ける。 「はぁ……余計手がかかってますよ」 「今日割ったグラス、給料から引いとくから」 「え!?俺の!?」  ぎろりと睨み、雇うと言い出したのは誰だと脅しつける。 「や、あそこまで使えないと思わなくて……」  ははは と笑いながらガラス片を処分しに行く。  気楽に笑っている後ろ姿を見やりながら、ふうと溜息を吐いた。 「あの子、名前なんて言うの?」 「ケイトです」 「ケイト君は……従業員決定?」 「不採用決定です」  つん とそう言うと、馴染の客は苦笑する。 「まぁ、あれだけ失敗してたらねぇ……でも」  続けられた言葉に、ん?と眉を上げた。 「従業員じゃないなら、手を出してもいいんだろ?」 「……」  そう。  不採用と決めたのであれば、客が彼とどう言った交渉をしようと関係はない。  頷こうとしたが、首の筋肉が強張っている事に気が付いた。 「ね、ケイト君!」 「う?はーい?」  決してスマートではない、バタバタとした歩調でこちらに来るケイトは、客の手が促すままにその膝の上にすとんと座る。 「なんですか?」  客の膝の上に座る事に慌てもせず、計都はきょとんと首を傾げた。

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