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第11話

 えくぼの出来るその頬を客の指が撫でる。 「このバイト終わったら暇?」 「暇ですよー」 「俺と遊ぶ?」  くすくすと笑う客の『遊ぶ』が何を指しているのかは明白で……  そのあからさまな誘いに眉間に皺が寄るのを感じた。 「家に泊めてくれるならいいですよ?」 「お?乗り気?」 「って言うかー今日帰る家がないからさぁ泊めて?」 「えー いきなりだねぇ」 「お礼はしますよ?」  客の首に腕を絡ませて笑う姿を見た瞬間、イラっとしたモノが胸の中を駆けた。 「ごめんなさーいっ!」  カウンター越しに計都の肩に手を伸ばして引き離す。  二人の間にできた隙間に身を乗り出す形で割り込み、垂れ目と自覚のある目を吊り上げて睨みつける。 「うち、そう言う店じゃないんで~他でやって貰えますぅ?」  そしていつものように「ね?」「ねっ!」と念を押すと、客は噴き出しながら計都の腰に回していた手を解いた。 「マスター、分かり易過ぎだろ?」 「……な、なんですか それ」  ぐっと言葉が喉に詰まる。 「   っ せ、先生。あんまおいたしてると、彼に電話しちゃいますよ?」  最後の手段とばかりにそう言うと、にやにやと笑う客は、肩を竦めて「それじゃまた」とひらりと手を振って帰って行った。 「……テンチョのイジワル」  ドキッと鼓動が跳ね、既視感に冷や汗が流れる。 「どうしてくれるんですか?俺の今日の寝床」  つん と唇を尖らして拗ねるその姿はやはり圭吾とかぶり…… 「今日一日くらいならオレの家に泊めてやるから、客とそう言う事は禁止だ」  見ないようにと逸らした視界の隅で、ぶぅっと頬が膨れるのが見えた。

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