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第15話
温かなお絞りが渡され、顔を上げる。
「そのクマ何とかしてさっさと働きやがって下さい」
絶対雇い主だと思ってないその言葉に、けれど図星過ぎて怒り出す事も出来ずにはいと返事をした。
適温のお絞りを目に当て、その気持ちよさに「はぁ」と声を出す。
「悩ましげな声ですね。昨日は楽しめましたか?」
「ぶっ!!」
一瞬の気持ち良さを吹き飛ばした壱の言葉に飛び起きると、裏からごとごととサーバー用のタンクを運んでくるところだった。
「仕事に支障を来たす程頑張らなくてもいいでしょうに。これ重いです」
深く座り込んでいた椅子から立ち上がり、壱の腕からタンクを受け取ってカウンターの中に運ぶ。
「何邪推してんだか知らないけど、泊めただけだからなっ」
「いやいや、苦しい言い訳しなくても。俺は恋人でも何でもないんですから」
恋人ではないだろうが、姑のようだと感じるのは気のせいか?
「いや、まじ、ホントに……」
「じゃあどうして―――――
カシャーン
―――――ここにまだ来るんです?」
いつもどこか酷薄そうな壱の目が更に冷たさを帯びる。
「ぅ……」
「ったく。ほら!触っちゃダメだよ!」
そう言ってカウンタんーの中で薄玻璃の欠片をぽかんと見ている計都の傍へと駆け寄って行った。
割れたガラスの処理をするのを見ながら、どうしてまた連れてきてしまったのかと頭を抱える。
――眠い
割れたグラスを補う為に早めに起きて買い出しに出かけたのもあるが、昨日は殆ど睡眠らしい睡眠をとる事が出来なかった。
計都の行動の端々に見え隠れする圭吾の面影に、……参った。
「恭司さんが雇うって決めたんなら、ちゃんと仕事仕込んでくださいね!」
キビキビと動く壱が恨めしい。
仕方なく買ってきたグラスを出すべく歩き出す。
その途端、視界の端にピンクのふわふわの頭がちょこちょこと動いているのが見え、再び椅子に腰を下ろした。
「はぁ……」
半端ない脱力感のせいか動きたくなかった。
「さぼってないで動きやがってくださいよ」
そう広くない店内を右往左往と忙しげに立ち回る壱は、一人でもこの店を十分回していけるんじゃないかと思わせる。
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