17 / 101
第16話
少し、今日は休んでやろうかと考えた瞬間、また何か物の倒れる音がして立ち上がった。
「…………」
「あ、テンチョ!」
「それ、どうしたの……」
指差した先には無残に倒れた花瓶が転がり、活けてあった花が辺りに散らかっている。
「水替えようかなぁって」
「モップ持ってきて」
「モップどこですか?」
「……も、いい。座ってて」
そう言うと、そのピンク頭は素直に傍のスツールに腰を下ろした。
花を集め、モップで水を取り……普段する必要のない作業に疲れはさらに募る。
「シマキ君、こっち来て。お酒の場所とか教えるから、覚えてね」
「えー、自信ないです」
「覚えようね」
壱が居てくれてよかったと正直に思う。
圭吾は物覚えが良かったな と思い出しかけて、慌ててモップを握り直す事で思い出に浸るのを避ける。
ふとした瞬間の記憶のフラッシュバックは、気持ちをさらに下方へと誘うから……
思い出さないように首を振って目の前の事に集中した。
繰り返し割られるグラスに客から苦笑が漏れる。
「あれ、大丈夫なの?」
「うちが潰れたらあれのせいですね」
くすくすと笑う客に、注文のカクテルを差し出す。
「あの子、不採用って言ってなかったっけ?」
にやりとした笑いはからかうようで……
ともだちにシェアしよう!

