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第16話

 少し、今日は休んでやろうかと考えた瞬間、また何か物の倒れる音がして立ち上がった。 「…………」 「あ、テンチョ!」 「それ、どうしたの……」  指差した先には無残に倒れた花瓶が転がり、活けてあった花が辺りに散らかっている。   「水替えようかなぁって」 「モップ持ってきて」 「モップどこですか?」 「……も、いい。座ってて」  そう言うと、そのピンク頭は素直に傍のスツールに腰を下ろした。  花を集め、モップで水を取り……普段する必要のない作業に疲れはさらに募る。 「シマキ君、こっち来て。お酒の場所とか教えるから、覚えてね」 「えー、自信ないです」 「覚えようね」  壱が居てくれてよかったと正直に思う。  圭吾は物覚えが良かったな と思い出しかけて、慌ててモップを握り直す事で思い出に浸るのを避ける。  ふとした瞬間の記憶のフラッシュバックは、気持ちをさらに下方へと誘うから……  思い出さないように首を振って目の前の事に集中した。  繰り返し割られるグラスに客から苦笑が漏れる。 「あれ、大丈夫なの?」 「うちが潰れたらあれのせいですね」  くすくすと笑う客に、注文のカクテルを差し出す。 「あの子、不採用って言ってなかったっけ?」  にやりとした笑いはからかうようで……

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