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第17話

 居心地の悪さを感じながら眉間に皺を寄せないようににこやかに微笑んでみせる。 「割られたグラス代くらいは稼いで貰わないと」  甘みの強いそのカクテルにちびりと口をつけながら、銀眼鏡の客はぷっと噴き出した。  そこに含む意図に、つい片眉が跳ね上がる。 「マスターの好みだねぇ」 「違いますぅ」  そう言うも……そのふわふわとした頭に気を取られる自分がいる事には気づいていた。  玄関での押し問答に、隣の部屋から苦情が来た。  頭を下げて繰り返し謝り、ぶーぶーと文句を言っている計都の首根っこを引っ掴んで部屋へと飛び込んだ。 「っ 迷惑だっ!!」 「えー昨日も泊めてくれたし、今日もいいっしょ?」 「よくない」  隣人が部屋に戻った音を聞いてから計都を扉から押し出す。 「ちょ ねぇ!ホント、俺、今日の寝床まだ見つけてなくてさぁ……クタクタだし~寝かせてよ!」 「うるさいっ騒ぐなっ!」 「お腹も空いたんだよぅ」  目の縁で限界まで盛り上がる涙は本物だろうか?  縋り付いて懇願するその姿は、どこか人に媚びるのに慣れた猫のようで…… 「本当に今日で最後だからな」  そう呻くように言って計都を押す腕の力を緩めた。 「俺、野菜嫌い」  さっぱりしたものが食べたくて、素麺の上にサラダを乗せた物を用意してやるとそう呻くように言う。 「贅沢言うな」 「やだーラーメンとか……」 「ない」  そう言うと、ぶーとまた子供のように膨れ、左手で持った箸の端先で上に乗った野菜を穿りながら素麺をちゅるんと啜る。 「野菜も食べろよ」  つんと唇を尖らし、計都は返事をしない。  おかしな箸の持ち方でただぐりぐりと弄るだけだ。

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