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第20話
「 ぃっ」
テーブルにぶち当たる形で倒れた計都は、腕を押さえて小さく呻く。
「ぁ……」
倒れ伏す華奢な体。
怯えを滲ませながらもオレを見てくれた猫の瞳。
「すま……」
「っ……」
謝罪の言葉は喉の奥に引っ掛かり、途中までしか出てこない。
計都は腕を押さえたまま、蹲るばかりで何も言ってこようとはしなかった。
「……おい」
丸めたその背中が震える。
大袈裟にそうしているのかと思っていたが、覗き込んだ横顔はいつものふわふわした行動からは考えも出来ない程苦悶に歪み。
明らかにオレの行動によってどこかを痛めていた。
「立てるか?」
その声にも、蹲り脂汗を流しながら首を振るばかりで……
「病院に行こう」
「……や」
歯を食いしばりながら首を振る。
傍から見ていて、それほどの痛みがこのまま放っておいて治まるとは考えにくい。
「……俺、保険……ないし っ」
首を振った振動が痛みになったのか、計都はまた小さく体を丸めて呻いた。
横たわる計都を確認してから白衣を着た人物に促されて建物の外に出た。
「恩に着るよ」
そう言うと、医者は無言のまま煙草に火をつけてふぅと煙を吐き出した。
自分の物より幾分きついその煙草の煙を邪魔っ気に思っていると、医者はゆっくりと口を開いた。
「お前がそう言うのも珍しいな。動画撮りたいからもう一度頼む」
「やかましい」
ふっと笑うと、医者はオレの頭をぐりぐりと撫でまわす。
「ちょ……」
「久しぶりに連絡してきたかと思ったら厄介ごとか?」
「そんなんじゃ……」
小さな子供のように扱われ、居心地が悪くなって身を引いた。
久しぶりに見る垂れ目の顔は、年を取るごとに自分と似てくるように思えてならない。
「どうだ?お兄ちゃんに話してみろ」
にやにやと笑うその顔に、ぶすっとした顔を向ける。
五歳上の兄の翔希(しょうき)は医者だった。
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