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第21話

 帰る家がない。  そう言っていた段階で薄々はもしやと思ってはいたが、保険のない為に医者に行くのを嫌がる計都をどうにかするために頼ったのが兄だった。 「……まぁ 冗談は置いておいて……」  鋭い目が診察室の灯りの方を向いた。 「アレはお前がやったのか?」 「……っ」  否定できずに、気まずく足元の砂利を鳴らす。 「あの子のアレはすべてお前がやったのか?」  兄と言うだけで、翔希に対しては無条件に敵わない気がしてしまう。  ぐっと喉元が詰まった瞬間、額に衝撃がきて視界に火花が散った。  ごちん  と言う鈍い音に、脳みそが揺れて呻き声が出る。 「ぅ……」 「もう一度聞くぞ」  頭突きされた場所をそのままぐいぐいと押され、逃げようとしたが掴まれた襟元が距離を取らせてくれない。  「あの子の、体中の傷は、お前が、やったのか?」  締め上がる喉元に呼吸を遮られて苦しかったが、かろうじて違うと言葉を絞り出す。 「…………そうか」  掴み上げていた手が緩み、よたついて尻もちをつくと翔希も倣って腰を下ろした。  ふぃー……と長く煙を吐いて、思案顔で頭を掻く。 「そうかそうか。縛られた痕とかやけどの痕とか?……あと腕も、あれ、だいぶ具合悪かったんじゃないのか?痛がってなかったか?」 「いたが……って?」  訳の分からない事に加え、手を痛がっていなかったかと問われて首を振った。 「いやそんな素振り……」    言いかけて、計都が散々壊したグラスと掴んだだけで痛いと言った腕の事を思い出す。 「……あった」 「お前なぁもうちょっと恋人の事見ててやれよ!」 「違う!」 「えぇ?」  にやにやとした笑いに含まれたのは、どう言う感情なのかオレには読めない。 「そんなんじゃない。拾っただけだ」  ぽとん と携帯灰皿に灰を落とし、兄貴は得心が言ったとばかりに更ににやりと笑った。 「ああ、あれ?愛玩動物とか言う奴?性奴?」  頭痛がする……  「……マジ勘弁」 「それがお前の趣味だってんならお兄ちゃんは非難しない!ただしもうちょっと労わってやれ!」 「違うって……」  頭を抱えたオレの背中をばしばし叩く力は強くて、ふらついて倒れそうだ。

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