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第29話
仕方なくテレビの電源を落とすと、はっとなった計都が恨めしそうにオレを見上げてきた。
「テンチョ~~~っ!!」
「うるさい。食事だ」
「今犯人の正体を言うところだったんですよ!?」
「サスペンスのソコだけを見て何が楽しいんだっ」
「なんかカンニングしてるっぽくていいじゃないですか!」
「カンニングはいいことじゃない!食え!」
そう言ってびしっと食卓を指差すと、計都はえ~?と不満そうな声を上げた。
「コーヒー嫌い」
「うるせぇ」
「牛乳ないの?」
そう言ってふらふらと冷蔵庫に行こうとする計都に「ない」と返す。
「えぇ じゃあ……」
するりと掌が首を撫でた。
頼りない体重がもたれかかるのが分かって首をひねる。
「なんだ」
「テンチョのミルクちょうだ……ぶっ」
ばしんと顔面をはたいてやると、苦悶の声を上げながら計都は蹲ってしまった。
「うちで親父ギャグは禁止だから」
「ひ ひひゃい……」
「それに」
そう、それに だ。
「性欲処理の相手をしただけで、そんな馴れ馴れしくするな」
「……」
「お前は恋人でも何でもないんだからな」
「……はぁい」
ぷぅ……と膨れた計都は、そのまま椅子に体操座りをしてパンをかじる。
「ちゃんと座れ、行儀悪い」
そう言って立ち上がる。
「ぶー」
そんな文句も聞き流しながら、鍋をコンロにかけて棚の奥にあった袋を引っ張り出す。
湯が沸いたのを確認して、その袋の粉を溶かすと甘い匂いがした。
「いいじゃん、座り方くらい けーち」
「……ケチで悪かったな。じゃあこのココアはいらないな?」
「ふぇ!?」
飛び跳ねた計都が、オレの手の中のココアを見る。
「ちゃんと座るなら飲ませてやる」
「座る!座るよ!」
ばたばたっと座り直し、手を膝の上に乗せて待つ計都の前へココアを置くと、「うわぁ」と繰り返し嬉しそうな声を上げている。
「……ココアくらいで」
「へへ、ココア好き!テンチョ!ありがと!」
幼い子供のように礼を言い、計都はカップを持ち上げてふぅふぅと息を吹きかけていた。
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