31 / 101
第30話
「……あれ?」
鋭い壱が、ナニかに気付いたようだった。
「おはよう」
「おはようございます。すっきりしてますねぇ、シマキ君」
「……何がだ」
「ナニがです」
既視感に襲われながら、それ以上突っ込んだ事を聞かれたくなくて忙しい振りをする。
「なんかこう どよんとしてたのが流れてすっきりしたと言うか……」
「君、なんか視える訳?」
「え?調子がいいと」
そう返され、言葉を失って黙り込む。
「 シマキ君。ちょっとそこに座っててね」
「ハーイ」
定位置と化しつつあるスツールからそう返事をした計都から逃げるようにバックヤードへと入る。
以前に壱が近い!と喚いた距離で向かい合い、何があったのか詰問された。
「悪事は全部ばれるんだっ早く話して楽になれ!」
「悪事ってなんだよ!」
「ナニしたんですか?」
ぐっと言葉が詰まる。
ナニ、した。
呟いた途端、壱の鼻で笑う声が聞こえる。
「圭吾ン時に散々『もう誰かを好きになんかなるか』って言ってたのにぃ随分早いですね。もう少し持たせましょうよ」
「いやっ……そんな恋愛感情なんかじゃない し 」
「うわぁっ体目当てなんだ!やぁらしい~」
「別にオレは出してないんだからっセーフだろセーフ!」
どんっと床を叩くが……説得力がないのは分かっている。
口で手で、あんなところまで弄れば、アレはもう立派な性交渉だと、自覚はある。
「じゃあ何目当てなんです?」
「目当てとかじゃなくて……ただのあいつの性欲処理だよ……」
消え入る言葉に、壱は眉を上げて肩を竦めた。
「まぁ、そう言う事にしときましょう」
そう言うとオレを残してさっさと出て行ってしまう。
そう、性欲処理だ。
頼まれたから、シたに過ぎない。
あそこまでする必要は…………なかったと思うが……
ともだちにシェアしよう!

