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第30話

「……あれ?」  鋭い壱が、ナニかに気付いたようだった。 「おはよう」 「おはようございます。すっきりしてますねぇ、シマキ君」 「……何がだ」 「ナニがです」  既視感に襲われながら、それ以上突っ込んだ事を聞かれたくなくて忙しい振りをする。 「なんかこう   どよんとしてたのが流れてすっきりしたと言うか……」 「君、なんか視える訳?」 「え?調子がいいと」  そう返され、言葉を失って黙り込む。 「  シマキ君。ちょっとそこに座っててね」 「ハーイ」  定位置と化しつつあるスツールからそう返事をした計都から逃げるようにバックヤードへと入る。  以前に壱が近い!と喚いた距離で向かい合い、何があったのか詰問された。 「悪事は全部ばれるんだっ早く話して楽になれ!」 「悪事ってなんだよ!」 「ナニしたんですか?」  ぐっと言葉が詰まる。  ナニ、した。  呟いた途端、壱の鼻で笑う声が聞こえる。 「圭吾ン時に散々『もう誰かを好きになんかなるか』って言ってたのにぃ随分早いですね。もう少し持たせましょうよ」 「いやっ……そんな恋愛感情なんかじゃない し  」 「うわぁっ体目当てなんだ!やぁらしい~」 「別にオレは出してないんだからっセーフだろセーフ!」  どんっと床を叩くが……説得力がないのは分かっている。  口で手で、あんなところまで弄れば、アレはもう立派な性交渉だと、自覚はある。 「じゃあ何目当てなんです?」 「目当てとかじゃなくて……ただのあいつの性欲処理だよ……」  消え入る言葉に、壱は眉を上げて肩を竦めた。 「まぁ、そう言う事にしときましょう」  そう言うとオレを残してさっさと出て行ってしまう。  そう、性欲処理だ。  頼まれたから、シたに過ぎない。  あそこまでする必要は…………なかったと思うが……

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