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第31話

 開店して直ぐにやってきた客に軽く手を上げる。 「いらっしゃいませ」  そう声を掛けて席へ案内しようとする壱の肩を叩いた。 「いい。客じゃないから」 「酷いな。何か飲ます位はしてくれてもいいだろ?」 「車じゃないのか?」  そう言うと、兄貴は軽く肩を竦めた。 「烏龍茶かな」 「用意しとく。裏使ってくれ、すぐに行かせるから」  そう言うと、壱に軽く笑いかけてからバックヤードの方へと姿を消した。 「あの人は?お医者さんですか?」 「良くわかるな」 「背中に一杯憑けてたから」 「……」 「冗談ですよ。消毒液の臭いがしたから  シマキ君を呼べばいいんですね?」  相変わらず察しのいい壱に頷いて返すと、スツールに座っている計都を呼びに行ってくれた。  昼夜逆転の生活で病院に行くのも一苦労する為に、身内の権限で往診を頼んだのだ。声を掛けられた計都は首を捻りながらもバックヤードへと駆けて行く。 「……身内の方ですね」 「ああ、兄貴だよ」 「へぇ」 「壱のとこは  何人兄弟だっけ?」 「五人です」  確か以前に一番上のお兄ちゃんと言っていたから、その面倒見の良さも自然と分かる。  他愛ない話をしていると普段通りちらちらと客が入り始め、すっかり計都と翔希の事を頭から締め出してしまっていた。 「  お兄さんに出す烏龍茶、そろそろ用意しましょうか?」  そう言われて時間がかなり経っている事に気付いた。  辺りを見渡し、平日な事もあってそう忙しくないのを確認してから裏に行ってくると壱に告げてバックヤードへと向かう。 「―――――」 「―――!」  中から聞こえる笑い声。  ドアノブに手を掛け、一瞬迷う。  子供ではないのだから、その内で出てくる。  そう思うも、二人きりで長く籠っていると言う事が引っ掛かっていた。 「―――っ!!」  一際大きく上がった笑い声に押されるようにしてドアノブを回す。

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