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第32話
「 なに やってんだ」
声が貼りついてうまく紡げない。
「よぉ恭司。どうした?」
「……どうしたはこっちのセリフだ」
その声が酷く低い物だったせいか二人は顔を見合わせ、計都はしずしずと翔希の膝の上から降りてシャツの乱れを直した。
「なにやってんだっ!!」
怒鳴り声が店に届かないように戸を閉めてからそう怒鳴ると、二人はまた顔を見合わせて
「「お医者さんごっこ」」
と声を揃えて答えた。
「―――なっ」
ぶるっと拳が震える。
「じょーだんだって。この前やけどとかあったからさ、軟膏も持ってきたんだよ。これ、一日数回塗って上げるんだぞ」
「……自分でするだろうが」
「背中もあるから」
手の中に落とされた容器を眺めてそう文句を言っている途中で苛つきの原因に気付いた。
「だからって膝に乗せる必要ないだろっ!?」
「やぁ、なんて言うか……ノリ?」
「翔希っ!」
咎めようとするも、翔希はははと笑いながら店の方へと出てしまった。そうなれば、追いかけてまで文句を言う事は出来ない。
「テンチョ。ネクタイ結んで下さい」
「………」
もたもたとした動作でボタンは留める事が出来てはいたが、ネクタイはどうしても出来ないようで、こちらに黒いそれを振りながら近づいてくる。
「テンチョ?」
くぃっと首を傾げたその動作に腹が立った。
襟を掴んで引き上げると、爪先立ちになった計都は使える左手でオレの手を握ってくる。
「て 、くる……」
能天気そうな顔が苦しさに歪み、呻き声が出る。
「翔希は……兄貴はノーマルで、オレらと違うんだっ妙な事をすんなっ!!」
投げるように計都を放り出すと、けほけほと咳き込んだまま首を繰り返し振り、「違う」と声を漏らした。
「俺、何もしてないよっ」
「昨日みたいに、誘ったのかっ?」
「ちがっ 違うよっ!!」
きゅうっと寄った眉が文句を言いたそうに見えて、床に崩れたままの計都を見ていると涙が縁に溢れているのが見えた。
いきなり……確かにやりすぎた。
計都との昨夜のことは性欲処理と切り捨てたはずなのに、計都が他の男の膝に乗っているのが腹立たしいなんて……
気のせい……
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