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第35話

 ピンクの髪が泡にまみれてその強烈さを和らげる。ずっとこのままでいればいいのにと思いながら、目を閉じるように促す。 「やっ!上向くから!上っ!!」  そう言って仰け反る計都の髪にシャワーをかけるが、顔にかかるのが嫌なようなので、手で額を覆って水が流れないように防いでやる。 「んっふふ~」 「なんだ。気持ちの悪い」 「泡遊びする?」 「うるさい」  一蹴して今度は体を洗う。  よくボディーソープを泡立て、タオルで擦るのは痛いだろうとまだ赤みを残しているやけど跡は避けて掌で全身を洗う。  脇腹や敏感な部分に触れる度に、計都は大袈裟に笑って身を捩り、辺りに泡をまき散らす。 「お前は子犬か」 「わんっ」 「近所迷惑だ」 「きゅうん」  そう情けなく鳴き、濡れたままの体でぎゅうと抱きついてくる。  服の濡れる感触と肌の温もりが絡む。  心地いいはずのソレに素直にそう思えず、ずぶ濡れになりながら引き離すと、またけらけらと笑う。 「テンチョも一緒に入ろうよっ」 「お前を入れた後、ゆっくり入る」 「俺洗って上げるからさぁ……ぶっ!!」  ざばっとシャワーを頭から掛けてやると、きゃあきゃあと言って逃げ惑う。 「ほら、来い」  脇や耳の後ろの洗い残しを確認してバスタオルを広げると、腕の事も考えずに全力で飛び込んできた。  オレが避けるとかそう言った事は一切考えていないその行動は、いったいどこから来るのか…? 「うふふ~ふかほか~」  怪訝な顔を向けてやると、 「ふかふかのほっかほか~」  ああそうかと納得しながらくるんでやり、全身をくまなく拭いて行く。  それにも計都はくすぐったいと言っては大はしゃぎをし、その度に窘めなくてはならなかった。 「服着る前に薬を塗るからな」 「えぇ?べたべたになるよぅ」 「文句言うな」  何故こんな世話まで焼かなくてはならないのだろうかと思いながら、くすぐったがって転げまわる体を押さえつけて軟膏を塗る。  そしてぬるぬるすると文句を言い続けるのを無視して服をなんとか着せることができた。  すべてを終えて、どっと溜息が漏れる。  育児なんてした事はないが、きっとこれは育児に違いないと、テレビのリモコンを握り締める計都を眺めて思う。 「ほら、もう寝ろ」  手の中からリモコンを奪う。 「じゃあ……一緒に寝よ?ぎゅってして寝たい」 「うるさい」  またも一蹴して計都を寝室の方に押しやると、眉を八の字にしてこちらに縋るような顔を向ける。  触れて、抱きながら眠って欲しいと全身で訴えるその様に、流されそうになる…… 「とっとと寝ろ」  ここで流されてはいけないと、無視して風呂場へ向かった。  あの華奢な体を抱きながら眠れば、きっと圭吾が居た頃のようによく眠る事が出来るのは十分すぎるほどわかっている。

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