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第39話

 計都はまるでマスコットのように店に馴染み始め、同じスツールに座るだけの彼と店の客は何の疑問も抱かずに話をする。 「店員なのに働かないってありですか?」 「……」 「いや、ある意味ああしてくれてる方が助かりますけど」  黙って頷いておく。  物が壊れない分、まだプラスだ。 「恭司さん。短期でいいんでもう一回バイト募集して下さい」 「……はい」  てきぱきと注文のカクテルを作っていく壱に、何も言い返せずに良い子の返事を返す。  ちらりと、ともすれば冷たく思う壱の切れ長な目が横目にオレを見る。 「まぁ……いいんじゃないですか?」 「え 何が……」  壱に何か言われると、どきりとする自分がいる。 「なんか後ろめたい事でも?」 「あ いや……で、何が?」 「あれはあれで、客受けはいいかなぁと」  指差した先には、客と楽しげに話をしている計都が笑っていて……  客に肩を抱かれながら  笑っている。  冷たい物が、心臓を撫でる。 「あ。むっとしてますね」 「お願いだから読まないでくれる?」 「すみません」  全然すまないと思っていない声で謝ると、壱は出来上がったカクテルを盆に乗せた。 「あと、あそこの客、なんか気になります」  そう言って指差した先の客は、見覚えのない客で……  店に来たのは初めてだろう。  スーツの、ごく普通のサラリーマンのように思う。 「分かった」  頷く。  壱の勘ならば、気を付けるに越したことはない。  店の片隅で一人飲むそのサラリーマンが動いたのは、計都と話していた客が帰ったタイミングだった。  立ち上がり、スツールに腰掛けてくるりと回っている計都の傍に近寄って行く。  きょとんとその客を見た計都の目が見開いたように思えた。 「ひさしぶり」 「?」 「覚えてない?」 「え~?どうだったかなぁ?」  そう返した計都の腕を客が指差した。 「それ、やっぱり。折れてた?」  ざわりと背筋に何かが走った瞬間、壱がオレの腕を掴んできた。

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