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第42話

「……で、今話しますか?」  狭い店内を見回すと時間も時間だけあって二人組が隅で飲んでいるだけだった。  その二人もそろそろ引き上げる頃合いだったので、もう少し待つようにと合図する。  二人の客が引き上げてしまった所でcloseのプレートを出すように言い、簡単な片付けをしてから二人分のインスタントコーヒーを入れてカウンターに座った。  ちらりと一度、壱がバックヤードの扉を見た。 「よく眠ってるよ」 「そう、ですか」  こくりとどちらともなくコーヒーに口をつけた。 「まぁ、さっきの客   えぇっと、ブタとでも呼びましょうか」 「普通に呼んで上げて」 「じゃあ佐藤(仮)さん」 「それも本気で止めて」 「栗田さん曰く、シマキ君は家が無くていろんなところを泊まり歩いている と」  頷く代わりにもう一口、苦いコーヒーを啜る。 「まぁ代わり……と言うか、宿泊費は言わずもがななコトなんですが、あのブ じゃない、栗田さんの家に泊めた時に随分いろいろしたみたいで……」  体にあったあの傷跡はそれか。 「彼を『飼育』してたそうなんですが、目を離した隙に逃げられた……と」 「   はぁ」  息を吐いて顔を覆った。 「そうか」 「金も住むところもなくて、しょうがなかったんでしょうけど」  つん と唇を尖らせた壱の表情は切ない物だった。  彼の生い立ちを知るオレは、壱が計都を非難しない胸中を知っている。  だからオレは、その会話を終わらせる為に「ありがとう」と告げた。 「彼を、どうしますか?」  今一番聞いて欲しくない部分を聞かれて言葉に詰まる。 「……ど どうって  」  放り出せば、計都は今までのように一晩泊めてくれる相手を探すだけだろう。  だからと言って、このままずるずると家に泊め続ければ、  ……彼はオレに家賃代わりのセックスを迫るだろう。  感情に関係なく。  オレに何の想いも持っていなくとも。  一夜の宿と食事の為に。  想いのないセックスの虚しさを知っている身にそれは…… 「……腕が治るまで、保留にしてくれないか」  ソレがオレの精一杯だ。

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