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第50話

「まずい……」 「食べ物に失礼だろう?ちゃんと食べろよ」 「うぅ  」  茹でてもあるし、半熟の卵を絡めてしまえばそれ自体の味はあまり感じないはずだ。 「うぇぇぇぇぇ   」  泣きそうになりながら、それでもパスタを口に運ぶ計都に疑問が沸く。 「どうしてそこまで野菜が嫌いなんだ?」 「うぇ?……ナメクジごと料理された野菜  が     」  一気に顔色が悪くなった計都に「わかった、もういい」と告げて会話を終わらせる。始まりの段階で想像したくない物が出てくるのは十分に分かった。 「だからって食べないでいいわけじゃないからな」 「ぇぇぇえええええ   」  ぷくっと頬を膨らませて、行儀の悪い持ち方のフォークを不服そうに振り回す。  圭吾はそんな食べ方はしなかった。  男らしいがさつさはあったけれど、子供の様な行儀の悪さはない。  フォーク運びを見ながら、改めて教えなくてはいけないとぼんやりと思った。 「へ?」  きょとんとする計都を部屋へ押し込む。  よたつきながら入った部屋の閑散とした風に、計都は一瞬立ちすくんだようだった。  少し埃っぽい感じがして自然と眉間に皺が寄る。 「この部屋を使え」 「え?え?  いいの?」  頷き、背を向けた。  今はもう、家具の一つもないそこは、かつて圭吾が使っていた場所だ。  床に置かれた煙草と灰皿以外何もない空間。  圭吾を追い出してから、ずっとそこで蹲っていた事があった。  家具がなくなり、消えて行く圭吾の匂いに苦しさを覚えて繰り返し煙草を吸った。  薄れて行く圭吾の匂い。  ならばいっそ、自分で消してしまえと… 「喫煙室だったの?」  床の上の灰皿と煙草を見ながら、きょとんと振り返る。 「まぁ  そんなもんだな」 「煙草は?もう吸わないの?」 「ああ」  言った途端、オレの頭に計都の手が伸びた。

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