51 / 101
第50話
「まずい……」
「食べ物に失礼だろう?ちゃんと食べろよ」
「うぅ 」
茹でてもあるし、半熟の卵を絡めてしまえばそれ自体の味はあまり感じないはずだ。
「うぇぇぇぇぇ 」
泣きそうになりながら、それでもパスタを口に運ぶ計都に疑問が沸く。
「どうしてそこまで野菜が嫌いなんだ?」
「うぇ?……ナメクジごと料理された野菜 が 」
一気に顔色が悪くなった計都に「わかった、もういい」と告げて会話を終わらせる。始まりの段階で想像したくない物が出てくるのは十分に分かった。
「だからって食べないでいいわけじゃないからな」
「ぇぇぇえええええ 」
ぷくっと頬を膨らませて、行儀の悪い持ち方のフォークを不服そうに振り回す。
圭吾はそんな食べ方はしなかった。
男らしいがさつさはあったけれど、子供の様な行儀の悪さはない。
フォーク運びを見ながら、改めて教えなくてはいけないとぼんやりと思った。
「へ?」
きょとんとする計都を部屋へ押し込む。
よたつきながら入った部屋の閑散とした風に、計都は一瞬立ちすくんだようだった。
少し埃っぽい感じがして自然と眉間に皺が寄る。
「この部屋を使え」
「え?え? いいの?」
頷き、背を向けた。
今はもう、家具の一つもないそこは、かつて圭吾が使っていた場所だ。
床に置かれた煙草と灰皿以外何もない空間。
圭吾を追い出してから、ずっとそこで蹲っていた事があった。
家具がなくなり、消えて行く圭吾の匂いに苦しさを覚えて繰り返し煙草を吸った。
薄れて行く圭吾の匂い。
ならばいっそ、自分で消してしまえと…
「喫煙室だったの?」
床の上の灰皿と煙草を見ながら、きょとんと振り返る。
「まぁ そんなもんだな」
「煙草は?もう吸わないの?」
「ああ」
言った途端、オレの頭に計都の手が伸びた。
ともだちにシェアしよう!

