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第53話
何がそこにあるかなんてすぐに分かる。
力を込め、全身を使って扉を押すとずず と鈍く動いた。
何とか人ひとり分通れるだけ開けると、滑り込んでリビングへと出る。
「……」
「ぅ にゅ 」
案の定、ブランケットに包まった計都が扉を背にして寝こけている。
「……なんの為にベッドを買ったんだ」
そうごちてピンクの髪をかき上げると、寝ているはずの計都がほにゃりと笑み崩れた。
「……夢の中までお気楽か」
小さく苦笑して立ち上がると、スウェットの裾を頼りない力が引っ張る。
「んー テ、チョ……」
「自分の部屋に行け」
そう言い、指を払ってキッチンへと向かう。
熱いコーヒーを飲みたいところだったが、眠れなくなるのも困ると思って牛乳に手を伸ばす。
安眠効果もあると聞いたこともあるし、ホットミルクで妥協するしかない。
「温かい牛乳飲むの? 俺、淹れようか?」
眠たい目を明かりに細めながらキッチンに来る計都に頷く。
「 そうだな……たまには役に立て」
指先はまだ震えていて、しっかりと掴んだはずなのに牛乳パックを落してしまいそうだった。
カップに入れて電子レンジで温めるだけだ、左手だけの計都でもできるだろうと、牛乳を手渡してどっかりと椅子に腰を下ろした。
カップに牛乳を注ぎながら、どうして自分が淹れているのか自問自答する。
「……こんなの、ボタンを押すだけだろうが」
そう言いながら計都の分には蜂蜜と、熱くないように冷たい牛乳もわずかに注ぎ入れた。
「隠し味って必要でしょ?」
「いや、要らない」
まだひりつく舌でそっとホットミルクを舐めた。
うん、ちゃんと牛乳の味がする。
「いるって!ほらー……えっちぃの時にも、時々スパイスがある方が うぎゃっ!!」
膝の上に乗っかろうとした計都を蹴落とす。
尻を強かに打ったらしい……が、オレの知ったこっちゃない。
知ったこっちゃないが、
「あっつ……」
計都用に温めにしておいて良かった。
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