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第56話
「あいつの具合はどうだ?」
バックヤードから出てきた翔希にそう尋ねると、一瞬沈黙してから眉間に皺を寄せた。
「あの子に……ムリさせてないか?」
その一言に、どっと心臓が跳ねたのは秘密だ。
「いや。むしろ丁重に扱ってるよ。世話は全部焼いてるし」
「……世話、ね」
何か含む言い方だったが、突っ込まれて困るのはこちらなので黙っている事にした。兄がカウンターに腰掛けて煙草に火をつけると、噎せそうになるきつい煙が鼻をくすぐる。
「もっと軽いのにすれば?医者の不養生って言うしさ」
吸う表情自体も苦しげだ。
オレがそう言うと、小さな苦笑が返った。
「恭司はやめたんだっけ?」
「そう。健康志向になったからね」
そう嘯くが、翔希の顔は何が含む顔になっている。
居心地の悪さを感じて、咳払いをしてから客と楽しげに話す計都に視線をやった。
昨日のオレの行為を咎めるでもなく、あいつはいつものようにバカ高いテンションで「おはようございます」と部屋から飛び出してきた。
まったく…何を考えているか分からない。
早く腕が治ってくれればいいのに
そうしたら、追い出して……
また
独りの生活に戻る。
「仲良くしろよ」
「……違う。そんなんじゃないよ」
そう言って兄に烏龍茶を差し出した。
幸いにしてこの年まで骨折をした事のない人間なので治るのにどれくらいかかるかと言うのがピンとこず、計都の回復が遅いのかどうなのかは計りかねていた。
「腕の具合、悪いのか?」
チャーハンを口に運び込む手が止まる。
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