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第57話

「ぅ ん」 「好き嫌いするからだ」 「違うよっ!!はっぱ以外は食べれるもんっ」  ぶうっと膨れるが、わかめスープのわかめが残ったままなのをオレは知っている。  ……わかめも苦手か。 「ヤブだとは思いたくないが、他の病院で診て貰うか?」  そう言うと、計都は慌てて首を振った。  その必死さに、「どうした?」と返す。 「 だって……」 「ああ、治療費ならオレが出す。気にするな、お前には早く治って貰わないとな」  カチャン と、レンゲが皿に当たって小さな音を立てる。 「治ったら……」 「……」  計都の言葉の続きを待つが、俯いたままで言葉が続く気配がない。  なんて言葉が続くかは分かっている。  計都はいつか出て行く人間だ。 「……………なんでもない」  計都はそう言って再びチャーハンに口をつけ始めた。  二人分の食器を洗いながら、この生活は計都が腕を直すまでなのだと再認識し、思わず手が止まった。  指の甲を泡が擦り抜けて行くのをぼんやりと眺め、独りこの部屋で過ごしていた頃を思い出そうとした。 「……」  まず食事なんて作らなかった。  ただ惰性で生きて、仕事に行って、蹲るように眠って……  夢に現れる圭吾の幻にすがっていた。  夢の圭吾は笑ってくれる時もあった。  確かに幸せだと思っていたその時の記憶通りの……  けれどあの時間は独りよがりだった。  圭吾は以前に付き合っていた奴を忘れる事が出来ずにいた。  幾らオレと過ごしても、  幾らオレと笑い合っても、  その胸の奥にオレはいなかったんだ。  理解していた。  それでも愛していた。  圭吾とあいつの縁が切れたのなら、いつかオレを受け入れてくれると思っていた。 「   そんなわけ、ないのに……」  呟きは泡のように消えていき……  いたたまれなさにオレは皿を洗うのもそこそこに自室へと逃げるように飛び込んだ。  背後から「テンチョ?」と声が聞こえたが、振り返る事はしなかった。  今は見たくない。  圭吾に良く似た、その姿を……

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