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第58話

「ケイ ごめ……」  呟きながら目覚めた部屋は暗く闇が落ち、独りきりの空気が圧し掛かるように圧迫してくる。 「ぅ……っ…」  込み上げる吐き気と涙を堪えようと突っ伏した。 「け   ケイ……ケイっ!!ごめ…ん………」  日々精彩を欠いていく表情に、何とか光を取り戻したかったのに、オレはただ彼を引きとめておきたくて、こちらを向いて欲しくて…… 「キョウジ?」   背中に微かな重みが加わり、じんわりとした温かさが伝わる。  置かれた掌が上から下へと宥める動きで動き始めた。 「…………ケイ?」  体の震えが治まらない。  けれど、そっと腰に回された腕がオレを抱き締めた。 「うん?」 「ケイ」 「どうしたの?」  不思議そうに見る、アーモンド形の形のいい双眸には、怯えも、昏い同情も、居た堪れなさも、苦痛もない。 「ケイ」  くしゃりと髪を掴む。  柔らかな感触が掌をくすぐり、懐かしい感触に胸にずきりと痛みが走る。 「―――――愛してる」  ここが、弱かった。  腰骨の辺りにきゅっと吸い付いてやると甲高い声が上がる。  絡みつくように伸ばされた手は全身でオレを欲しがっていてくれて、満たされなかった心のどこかにじわりと何かがしみ出して満ちて行くような気がする。 「ケイ」 「ふ……、ぅん?」  口づけ、咥内を深く貪り愛撫する。  オレを求めてくれている。  オレが求めただけと同じ強さで…… 「だぁいすき」  耳元で囁き返してくれるこの言葉が、仄かに胸を温めてくれた。  夜明けがカーテンの隙間から朝日を連れてくる。  照らされていく部屋はまるで醒める夢のようで……  腕の中で眠るフラミンゴ色の頭を浮き彫りにする。 「……」  オレが動いても、長い睫毛は伏せられたままで。穏やかな寝息に安堵を覚えるはずが、悪寒を覚えて転げるようにベッドから降りた。  見下ろす計都の肌に新しく散った小さな赤いマークが、オレの行動の動かぬ証拠で。  オレはこいつを、誰だと思って抱いたのか……

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