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第59話

「シマキ君。ご機嫌ですねぇ」  拭いたグラスを光に翳しながら何気ない世間話の一環で振られたが、ぐっと答えに詰まった。 「  ……そうか?いつも通り、能天気なだけだろ?」 「怪しい間でしたね」 「行間を読まないでくれる?」   はははと笑い、いつも通りスツールに腰かけて客と話をしている計都にちらりとだけ視線をやる。 「いや、まぁでも、彼が来てよかったですね」 「良くない。ただの穀潰しだ」 「そうですか?」  壱はそう言うと意味ありげに微笑んだ。 「彼、勘がいいです」 「そんな事ない」 「いえいえ、ああやって彼が話した客はリピート率が高いんです、意外と欲しい言葉をくれると言うか……」  いつの間にか懐柔されてるな と横目で睨むと、あははと軽い笑いが返る。 「今までの生活があるから、彼、人の心の機微って奴に敏感なんじゃないんでしょうか?」  その日毎に寝床を変えて、 常に神経を尖らせて……? 「いやいや、そんなタマじゃないだろ?服一つ自分で着れないただのアンポンタンだ」  最初に来た日に痛感したあの「使えなさ」を思い出す。 「あれねぇー……」  壱はそう含むように言ってからひそりと声を潜めた。 「彼、腕が痛くてエプロンとか巻けなかったんじゃないかなって思うんですよ。それを誤魔化してたのかって」 「誤魔化すって  言えばいい事だろ」 「言ったら雇わなかったでしょ?」  さくりと返され言葉を詰まらせる。  確かにそうだ。  使えるバイトが欲しかったのに、腕を怪我して無理ですと言われたら断る。 「でもあいつ、痛いとも何とも言わなかったぞっ」  ムキになって言い返すと、壱はシッとジェスチャーをした。  カウンターの端に座っていた客が何事かと言う顔をしたのを見て、曖昧に笑いながら頭を下げた。 「そりゃそうでしょう。言って何になるんですか?」 「え   」 「言って治るわけじゃなし、弱点ならばれないようにしないと」 「  言えばオレだって!」 「『オレだって』?」  ひんやりとした壱の目は、辛酸を舐めた事のある人間の目だ。

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