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第60話

 弱っているところを見せればどうなるかを、知っている目。 「……」 「彼は見せないだけで、きっと、店長よりもいろいろ考えていると思いますよ」 「……」  レタスが食べれないだとか、  ワカメが苦手だとか、  熱いのはダメだとか、  目に水が入るのが嫌だとか、  そんなことばっかり言っている奴が……? 「俺は、彼の事は嫌いじゃないです」 「……」 「いつも生きるのに一生懸命だから」  壱にしては珍しく穏やかな笑みを見せる横顔を、複雑な思いで盗み見た。  名残のように暗さをとどめた空を見ながら帰路に着く。  ぼんやりと空を見上げている計都の横顔に、何を考えているのか知りたくなって尋ねてみた。 「何考えてんだ?」  一呼吸分の間と、困ったようなはにかみ笑いがこちらを向き、思わず身構えてしまう。  細い指先がつぅ と微かに光る星を指差す。 「ぎょう座ー」 「は?」 「ぴ座ー」  いきなり言われた言葉が分からずに目を白黒させていると、ふふふとえくぼを作って笑う計都が腕に絡んできた。  ぶら下がる重さに負けないように踏ん張りながら、ほらほらと指さす方に目をやる。 「うまそうな星座―」 「食いしん坊か」 「ええーっだって、お腹空いたんだもん」  はぁ  と肩から力を抜く。 「んぎゃっ」  その拍子に腕に絡んでいた計都が落ちたが気にせずに歩き出した。 「んじゃ、今日は餃子でも作るか」 「やった!」 「野菜餃子な」 「何それ!?」  酷くがっかりした顔に思わずくすりと笑ってしまう。 「文句言うなよ」 「言う」 「言うなって」 「野菜入れないなら言わないよ?」 「皮だけ食ってろ」 「ひーどーいー!!」  ぶうぶう言う姿にほっとする。  そうだ、こいつが何かを考えてるなんて……ありえない。

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