61 / 101
第60話
弱っているところを見せればどうなるかを、知っている目。
「……」
「彼は見せないだけで、きっと、店長よりもいろいろ考えていると思いますよ」
「……」
レタスが食べれないだとか、
ワカメが苦手だとか、
熱いのはダメだとか、
目に水が入るのが嫌だとか、
そんなことばっかり言っている奴が……?
「俺は、彼の事は嫌いじゃないです」
「……」
「いつも生きるのに一生懸命だから」
壱にしては珍しく穏やかな笑みを見せる横顔を、複雑な思いで盗み見た。
名残のように暗さをとどめた空を見ながら帰路に着く。
ぼんやりと空を見上げている計都の横顔に、何を考えているのか知りたくなって尋ねてみた。
「何考えてんだ?」
一呼吸分の間と、困ったようなはにかみ笑いがこちらを向き、思わず身構えてしまう。
細い指先がつぅ と微かに光る星を指差す。
「ぎょう座ー」
「は?」
「ぴ座ー」
いきなり言われた言葉が分からずに目を白黒させていると、ふふふとえくぼを作って笑う計都が腕に絡んできた。
ぶら下がる重さに負けないように踏ん張りながら、ほらほらと指さす方に目をやる。
「うまそうな星座―」
「食いしん坊か」
「ええーっだって、お腹空いたんだもん」
はぁ と肩から力を抜く。
「んぎゃっ」
その拍子に腕に絡んでいた計都が落ちたが気にせずに歩き出した。
「んじゃ、今日は餃子でも作るか」
「やった!」
「野菜餃子な」
「何それ!?」
酷くがっかりした顔に思わずくすりと笑ってしまう。
「文句言うなよ」
「言う」
「言うなって」
「野菜入れないなら言わないよ?」
「皮だけ食ってろ」
「ひーどーいー!!」
ぶうぶう言う姿にほっとする。
そうだ、こいつが何かを考えてるなんて……ありえない。
ともだちにシェアしよう!

