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第61話

 ちょろちょろと餃子を作るオレの周りを行ったり来たりする鬱陶しさに、 「先に風呂にでも入ってこいよ」  そう呻いた。 「頭と体洗って」 「……」  きゅうっと眉間に皺が寄るが、右手の事を思うと断れない。 「温もってろ」  食事後にすぐ入れるようにお湯はもう張ってある。  中に入るくらいなら一人でもできるだろう。 「のぼせる前に来てよ?」 「分かってる」  脱がせと服の裾をバタバタさせる姿に溜息しか出ないが、袖を引っ張って脱ぐのを手伝ってやり、ベルトも外してやった。 「パンツも」 「……」  わずかに作られたしなを無視して風呂へと押しやる。 「  それくらい自分でしろ」 「もーぅ」 「すぐに行くから」  ぷぅと頬を膨らませて風呂場へ向かう計都の白い背中に目が行った。  白さに映える、ぽつりぽつりと散る朱に息が詰まる。  かつて圭吾に散っていたそれを見たくなくて   目を逸らした。  ぐっと作った拳の中で餃子がぐしゃりと握り潰される。  黙々と作業をしていると、洗面所の方でけたたましい音がした。 「っ!?おい!何やってるんだ!」 「ぅえー  」  そう呻いたきり、計都は濡れそぼった体のままがっくりと床に座り込んだ。  計都の足跡がてんてんと付く床に目をやり、余計な手間をかけさせるなと怒鳴ろうとしたのを飲み込む。 「大丈夫か!?」  ほんのりピンクなんてもんじゃない、真っ赤に茹っている計都の傍に膝をつき、虚ろな目をしてへらへらしている顔を覗き込んだ。 「 きもひ わる……」  ぐらぐらと揺れる頭をぐいと引き寄せて胸の中に収めると、熱い体がくたりと力なく崩れる。 「なん……」 「ふぇ?  あ?らって……てんちょ、来てくれ……」  へらりと笑った計都を思わず押しのけた。 「あにゃ  」  文句も言えないままに床に寝転がる姿を見下ろし、なぜか震えが起きる。 「 水、持ってくる  」  そう言ってなんとか計都から目を逸らす。  震えが指まで到達して、ペットボトルの水に波紋を作る。  なぜ?  オレが風呂に来ないのならば、もっと早く上がってくればいい。  オレの言葉を信じて、待つなんて…… 「おみじゅ  ぅー」  呻きにはっと思考が戻る。 「あ、ああ」  慌てて冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出して持っていく。  蓋を開けて計都の口に近づけてやると、ごくりと計都の喉が鳴るのが聞こえた。 「待ってろ、氷嚢持ってくるから」 「ん、へぇき……」  ゆるゆると首を振る計都にズボンの裾を掴まれ、そのままその場に立ち尽くす。 「でも、床は痛いかも」 「あ、あぁ……分かった」  自力で部屋に行け、とは言えなかった。  あられもない姿をどうにもできないままに横たわる姿は、自分が招いたものだ。  オレがすぐに行くと言ったから……  首の後ろと膝の後ろに手を通し、熱い体を持ち上げる。

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