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第62話
「わ テンチョも、濡れ……」
「もう濡れてる」
「ぬー……」
言い返す気力もないのか、計都は唸るとぽすんと頭を預けてきた。
計都に使わせてから立ち入ることのなかった部屋へと足を運び、その部屋に入った時に奇妙さに気がついた。
「……」
何が、ではないが……
圭吾のいた時と変わらない家具の配置。
散らかすことなく、整理整頓に気を付けて使っているのが分かる部屋。
なのになぜか、違和感がぬぐえない。
「 ん……」
「ああ、すまん。すぐに下ろすから 」
そう言ってベッドに寝かし、バスタオルを取りに行く。
「……なんだ?」
何が引っかかってるのか分からない気持ちの悪さのまま、バスタオルを取って戻って計都を拭いた。
「あつーぃ……」
団扇で扇いでいた手を止めて、ペットボトルの蓋を開けた。
「ほら、もう少し水飲んどけ」
「ん 飲ませて。口移し……でっ!!」
ぽこんとペットボトルで叩いて立ち上がる。
「その元気があるなら大丈夫だな。服着せてやるから横になってろ、勝手に漁るからな」
「あっ」
チェストの方へ歩こうとしたオレの服の裾を掴んだ計都の様子に首を傾げた。
「なんだ?」
「あ、の……自分でするから」
そんな状態で何を言っているのだろうかと見下ろす。
普段はシャツ一つ脱ぐのですら手伝わせるくせに。
「何言ってるんだ。寝てろ」
バッサリと切り捨ててチェストの引き出しに手を掛けた。
――――カラ……
思っていたよりも軽い手ごたえに、思わず引き出しがカツンと手に当たる。
「え 」
何も入っていない引き出しにまず戸惑いを覚え、さっと開けた二段目の引き出しの軽さにどっと心臓が脈打つ。
「おま……どこに服入れてるんだ?」
嫌な予感を振り払うように言うと、計都はぎゅっと身を小さくしてベッドの足元に置かれている旅行鞄を指差した。
「……」
「……」
そうか と、ふと納得する自分がいた。
先ほど覚えた違和感はこれだと部屋を見渡す。
生活感がない。
物がなかったり、使った痕跡がなかったり、そう言う小さな事柄が積み重なった違和感。
「……」
一杯に物が詰まっているのが分かるそれを開けると、計都の服一式を探し出す。
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