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第63話
「 なんで、向こうを使ってないんだ」
計都の為に買ったチェストを振り返りながら呻くと、へらりとした笑いが返ってくる。
「移すのが面倒臭くて」
「 そうか」
納得したふりをして枕元に一式置き、残りをチェストに片付けようとすると計都がまた首を横に振った。
「また暇なときにするー」
「ついでだろ」
「テンチョのえっちぃーっそんなに俺のパンツ触りたいの?」
ぺろりと舌を出し、悪戯っ子のえくぼ付きの表情を見せたのに思わずあきれ返る。
何かを深読みしたオレが馬鹿だったんだ。
こいつが出ていく気なんじゃないか なんて……
兄からの電話で起こされ、呻きながら小さく「なんだよ」と返事する。
「なんだとはつれないなぁ、今日休みなんだ。ちょっと出かけようと思って」
「 は? 勝手に行けばいいだろ?」
そう言ってまた寝そうになるオレを慌てた声が引き止める。
「計都君借りていいか?」
「―――はぁ?」
それでなくても、昨日ふと思ってしまったことを全力否定するので頭が痛いのに、増えた厄介事に不機嫌さを隠しきれない。
「お前、誘ったって嫌がるだろ?だから計都君貸してくれよ」
「だからってなんだ……なんでわざわざあいつなんだよ。物じゃないんだから貸し借りなんてできるわけないだろ!他当たれよ」
「だって、この間約束したし」
そう返され、そんな話は聞いてないぞと唸る。
「計都君は恭司の恋人?」
「違うって言った!」
「性奴?」
「いい加減にしろよ!」
「お前と関係ないなら、いちいち言う必要なんてないだろ?」
「ぅ……」
「彼携帯持ってないし、代わってくれる?」
嫌だ とオレが断るのはお門違いだと、ついさっき出た言葉を覚えている自分自身が一番分かっている。
分かっているが……
「まだ寝てる」
「激しすぎるんじゃないか?」
「何の話だ!」
「仕事の話だよ」
「~~~っ!夜の仕事なんだから仕方ないだろ」
携帯電話の向こうから軽い笑いが返った。
「じゃあ、迎えに行くから、起こして着替えよろしく!」
「おっちょ っちょー……」
オレの返事も待たずに翔希はぷつりと通話を切り……
すっかり寝る気のなくなったオレは、ベッドの上で唸るしかなかった。
「ほら、腕出せ」
「ぅんー?」
ばさりばさりと計都から服を剥ぎ、カバンの中から適当に選んだ服を着せていく。
「ほら、腕通せ。次、靴下」
「ねむ……」
「知るか!予定があるならさっさと起きて準備しろ!」
「はぇ?」
「兄貴が迎えに来るって」
寝ぼけ眼のままの計都が何やら考え込むそぶりを見せてから、「ああ」と跳ねる。
「一緒に夜明けのコーヒー飲もうって言われてたんだ!」
「ぶっ!?」
噴出したオレを尻目に、計都はぴょこんとベッドから飛び出して洗面所の方へと駆けていく。
「テンチョ!テーーンチョ!ねーぐーせー直してください!」
「……」
自分でしろ!と言いかけた言葉を飲み込む。
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