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第64話
「早く早く!ショウちゃん来ちゃうー!」
なんでそんな親しい呼び方になっているんだ!?と呻きながら計都の後を追って洗面所へと向かった。
寝癖を整えて歯も磨いてやった。
ハンカチとティッシュと持たせ、財布は大丈夫なのか確認すると、ほえ~とした顔が嬉しそうにしている。
準備を終わらして一息つき、ふと計都がナニかを起こさないかと言う不安がちらりと思考を横切った。
きちんと挨拶できるだろうか……からに始まり、また膝の上に乗って翔希に怪しいことをするんじゃなかろうか……とか。
「保護者同伴ってどうなの?」
「……オレが付いていくとまずいのか?」
「まずいって言うか、デートには普通ついてこないだろ?」
「デート!?」
「ショウちゃんとデートー!」
「はぁ!?何喜んでんだ!」
「じゃあそう言うことで」
叫んだオレにバイバイと手を振った翔希が蹴りを繰り出した。
「ぅあ!」
バランスを失って倒れかけたオレの目の前でドアがバタンと閉まり、銀色の車体はさっさと発進してしまう。
「え ちょ………」
特に性格に難有りな人でもないのに、なかなか意思の疎通が難しいのはどう言う事なんだろう……
計都を乗せた車が左折して消えて行くを見送ってから、がっくりと肩を落とした。
部屋に戻って、がらんとしたその空間を見渡した。
「……」
当然ながら誰もいなくて……
空虚なそこがとてつもなく広く見える。
計都が来るまでそれが当たり前だったのにいざそうなると打撃は思った以上だった。
圭吾を追い出した時の苦しさを思い出してぶるりと身震いが起きる。
寂しい。
「……」
圭吾がいなくて?
それとも……
「……」
誰がいなくて、オレは今寂しいと言っているのか。
……
最初はただ迷惑で……
責任を取るために面倒を見て、慰めのために圭吾と同じ格好をさせた。
そして、圭吾の代わりに抱いた。
代わりだ。
代わりに過ぎない。
なのにどうして、寂しい耳の奥に蘇ってくる声は計都のものなのか……
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