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第65話

 洗濯も終わらせて、なかなか掃除することのないブラインドや棚の後ろの埃も払い、掃除機もかけてふうと一息ついた。  時間はあと少しで昼と言うあたりだが、食欲は沸かない。  一人でテーブルに向かうところを想像しただけで憂鬱な気分になる。  いつもは計都が占領しているソファーに横になり、目を閉じてふうと耳を澄ませた。  マンションの廊下を歩く足音がするたびに、目を開けて息を詰めた。  扉の前を行き過ぎる気配がすると、ほっと肩の力を抜く。 「……待ってる わけじゃない  」  幾度目かの時にそう呻き、早朝に起こされたために襲ってきた眠気に抗うことなく目を閉じた。  どんな夢を見たのか覚えてはいなかった。  けれど目が覚めてソファーから伸ばした手が温かなものに包まれていると知った時、酷くほっとした。  安堵  その言葉が脳裏をよぎり、戸惑いを隠せなかった。  ほにゃっとした寝顔でソファーにもたれて眠る計都の手は、しっかりオレの手を握っている。 「……」  時計を見てみると一時間も寝ていない。  その間に帰ってきたんだろう……  ちょい とその鼻を摘まむ。  ふがっと声を上げた計都はそのまま顔をしかめ始め…… 「ふにゃぁぁっ!?」 「おい、えらく早い帰りだな」 「ふーふがっふ、ふー!?」 「ああ、うん、わかったわかった」 「んがーー!?」  じたばたと暴れる計都の鼻から手を離し、ぐいと体を伸ばす。 「やけに早かったな」 「うん、朝飯食べてきただけだから」 「はぁ?」  朝早く起こしてそれだけ? 「夜明けのコーヒー飲むって言ってたっしょ?」 「え、や、それ、例えだからな」  そう言うも、ピンク頭を振りながら立ち上がる計都は聞いていないようだった。 「テンチョ、お腹空いたー」 「あ?昼も食べてないのか?それくらい奢ってもらってこいよ」 「えー?だって~」  えへへと笑う。 「テンチョのご飯がいいんだもん」  うきうきとそう言ってテーブルに着き、足をぶらぶらと振り回した。 「飯っつったって  作ってねぇぞ?」 「ぅえ?」  目に見えてショックを受けた風な計都ががくりと項垂れると、同時にぐるると腹の虫が食事を催促する。  「……食材もないし、食いに行くか」 「ホント!?ホーント!?ぅわぁい」  飛び跳ねるように立ち上がった。  その勢いでバタンと椅子が後ろに転がる。 「ったく」 「あ……ごめんなさぁい  」  小さな子供じゃあるまし、食事に行くくらいでそんなに喜ぶのが……可愛いなんて思ったのはほんの一瞬だ。

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