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第66話
「何食いに行く?」
「動物園」
「何食いに行く?」
「どーぶつーえーーーーーーん」
「そこのファミレスでいいな」
「ぅえーーーーーーー!?」
「うっせ、耳が痛いだろ!」
むにっと唇を摘まむ。
ひしゃげた顔のまま計都はむーむーと文句を言っているが、摘まんだまま歩き出す。
「いひゃいーーー鬼―っ」
「飯食ってからでないと、動物園なんて食うところねぇだろうが」
「ふぇ」
嫌がっていた計都の抵抗がなくなり、代わりにぱたぱたとファミレスに向けて走り出した。
「行く!行く!早く食って行こ!」
「仕事があるからちょろっとだけだぞ」
猫の目をキラキラさせて頷いた計都は、早く歩かないオレの服を引っ張って急かした。
食事を済ませて向かった先は市営の動物園。
規模は大きくないがその分気軽に入りやすい値段と回りやすい規模だ、遊園地も併設されているがどちらかと言えばそっちがメインかもしれない。
「きたーーーーーー!」
「うるさいって」
そう唸る。
動物園の、どうしても拭いきれない動物臭と言うのが実は苦手で……
食事を先に済ましたのも、この臭いの中で食事ができるかわからなかったのもある。
「おおおおー!カーンガル―!」
「そんなテンション上がるものか?」
飛び跳ねて喜ぶ計都に、見学に来ていた幼稚園児たちがドン引いているのが分かる。
「ちょ 子供にも見せてやれ!」
柵にしがみつく計都を引きはがし、遠巻きになってしまった子供たちに場所を譲った。
計都は不満らしく頬を膨らませているが……
「お前幾つだよ、幼稚園児と張り合うなって」
「だってー あ!ぺんぎーーーーん!」
「聞けよ」
話も聞かずに駆けていく計都を追いかけながら口の端に小さく笑いが浮かぶ。
ただ動物を見てはしゃいでいる。
それだけのことが微笑ましく見えて……
「テンチョ!いたいた!」
慌てて顔を引き締め直し、次はクマか羊かと付いていく。
「……」
「じゃーん!フラミンゴ!」
「ああ、うん。見飽きた」
「ええ!?」
ピンクのふわふわなんて、計都だけで十分だ。
他に客の邪魔になっているわけではなさそうなので、しがみついてフラミンゴを見ている計都を放り出して近くのベンチに腰を下ろした。
「フラミンゴ ねぇ」
細い足の上にピンクの羽の塊。
その程度の認識しかない。
水辺のある檻の中でゆったり動く鳥の何が面白いのか、計都は柵にしがみついたまま動かなかった。
計都は、時折親鳥の足元で何かを口移しで貰う姿を見ては、ふにゃっと顔をほころばせている。
遠くで聞こえる動物の声と、心地よい日差しにトロリと瞼が落ち……
放り出した手に指が絡む感触がして目を開けた。
「 ……あぁ、寝てたか」
「ちょっとだけ」
「そうか」
うたた寝とは言え眠っていた頭はすぐには覚醒せず、ぼんやりとした意識のまま計都を見るとやはり視線はフラミンゴに向いたままだ。
「そんなに面白い鳥か?」
けだるい頭で尋ねてみる。
派手に動かない鳥ならば、ハシビロコウの方がまだ面白くていい。
「うーん?面白いって言うよりは、好き」
だから、その頭なのか?
喋るのが億劫で、ふぅんとだけ返事を返す。
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