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第67話
「―――フラミンゴの赤ちゃんはね、親からミルクをもらわないとフラミンゴになれないんだよ」
もう一度ふぅんと返した。
たまにまともなことを言うかと思っていたが、鳥が授乳するなんて聞いたことがない。
騙そうとでもしたいのかと眠い目を向けた。
「あのピンクはねぇ、おかーさん達から貰うプレゼントなんだよ」
横顔は、フラミンゴを見ていると言うよりももっと遠くを見ているようだ。
「ピンク きれいだねぇ……」
微かに動いた口元は、「いいなぁ」と動いているように見えた。
仕事の事もあるのであの後すぐに動物園を後にした。
たいした目玉の動物がいるというわけでもないし、フラミンゴをぼーっと見ていただけなのに計都は普段以上にご機嫌だ。
スキップしたり飛び跳ねたりしながら歩いていく後姿を何気に見やりながらついて行くと、ふと計都の視線が公園の方へと走ったのが分かった。
車の有無を確かめるのでもない、明らかに人を探す意思を持った視線に釣られてちらりとそちらに目をやる。
「……」
あるのは、ブルーシートと段ボールでできた小さな家だ。
反射的に目を逸らそうとすると、その家の前に座っていた一人が小さく手を振ったのが見えた。
え……?
はっと前を向くと、計都はニコニコとしながら手を振っている。
「……」
咄嗟に公園の人物に視線を戻すと、オレの動きに気が付いたのかさっと手を引っ込めて向こうを向いてしまった。
「……」
なんだ?
知り合い か?
偏見を持たないようにしているつもりだが、どうしても拭えない考えがあり……
計都が彼に手を振ったのが引っかかる。
「おい、さっきのは 」
「うん?あ!テーンチョ!メロンパン売りに来てる!!」
「いや、そうじゃなくて」
「買ってくる!」
珍しく食べたいとねだらずにさっさと買いに行ってしまう。
小さな車で移動しながらメロンパンを販売するその店に駆け寄って行き、注文しているのが見えた。
少し離れたここまで甘くて香ばしい匂いが漂い、計都が嬉しそうにこちらに駆けてくると一層その匂いが強まった。
「これ、テンチョの分」
はい と渡されたのはアツアツのメロンパン。
クッキー部分が固くて旨そうだ。
「俺の分も持ってて」
「え?」
ぐいっと押し付けられた袋を咄嗟に受け取る。
熱い塊に両手を塞がれたオレが呼び止める前に、計都は跳ねるような足取りで公園へと飛び込み、先ほど手を振った相手にそれを差し出した。
「……」
計都が差し出すが、相手はそれを受け取ろうとはしない。
ちらりとオレの方を盗み見てからぷいと背中を向けてしまった。
「―――!」
計都が何事か話しかける声が聞こえたが、相手は振り返ろうとはしない。
更に話しかけてはいたが、相手に反応がないのを見てから計都は肩を落とし、メロンパンの入った袋を椅子の傍に置いてからオレのところへと走って戻ってくる。
「 おまたせ!」
ぎゅうっと腕にしがみついてきた計都の表情が固く、伏せられた目はこちらを見ない。
「もういいのか?」
「ん……うん」
小さなえくぼのできた笑みを作る口元にあるのは寂しさだったが、オレはあえて気づかないふりをした。
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