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第68話
「野菜食いたいな」
の、一言に計都は素早く反応して警戒の目でこちらを睨みつけてきた。
「いいですね」
「野菜食わす方法って知ってる?」
刺さる計都の視線を無視して相槌を打ってくれた壱に話を振ると、やや考え込んでから口を開く。
「王道はカレーですね、あとは餃子とかオムレツとかどうです?」
「餃子はこの前作った」
「育児大変ですね」
「育児……」
育児 ともう一度繰り返して、警戒心を最大にしてこちらを見ているピンク頭に視線をやる。
育児かもしれない。
「弟たちは、店長のおいなり大好きですよ」
「オレのおいなりさん 」
「下ネタじゃないですよ」
「あ、はい」
壱の眇めた目に睨まれて時間帯的に下ネタに走った思考に活を入れる。
「あれなんでしたっけ、筑前煮?」
「ああ、前に稲荷寿司と一緒に渡したな」
そんなこともあったと思い出しながら、筑前煮の蓮根を思い出して喉が鳴る。
しっかりと味の染みた粘りのある和蓮根が食べたいと思いもしたが、計都が食べるイメージが湧かない。
もうすでに視線が食べないと言っている。
「美味しいのになぁ。食べたいなぁ」
「店長のご飯うまいですよね、弟たちも楽しみにしてるんですよ」
「それは 」
思わず視線を向けてしまうと、にやりと笑う壱もこちらを向いていた。
その目がキラキラと、何を訴えているのはわかる。
「 一人頭、何個食べるのかな……」
二人兄弟の末っ子なのに、こうも人に頼られると断れないのはどうしてだろうか。
「へーそうなんだーまたそのうちに作れたら作ってくる」とでも返しておけばいいものを……
「何個?一番下の弟で十個は軽く平らげますけど」
一本、二本と指を折って計算してみるが、そんなことをしなくても自宅の炊飯器で炊ける量でないのは明白だった。
「まぁ 期待しないでいて」
そう返事をするも、何回か炊き直せばいいと考えている自分もいて……
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