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第69話
ごそごそとキッチンで仕込みを始めると、大量の食材が気にかかったのかピンクの頭が傍をちょろちょろ動き回る。
「包丁使うんだから向こう行ってろ」
邪険に追い払うも、こちらの手元から視線がずれない。
仕方がないので椅子を持ってきて座らせ、手は膝の上に乗せさせた。
「動かない」
「はい」
「手を出さない」
「はーい」
「つまみ食いしない」
「えー」
「えーじゃない」
刃物を使う時に周りをうろつかれるなんて堪ったもんじゃない。
「テンチョ、ナニ作るの?」
「おいなりさんと筑前煮」
「テンチョのおいなりさん……」
「稲荷寿司な」
壱の気持ちが分かったところで、揚げに湯をかける。
「 ねー。テンチョはどこでそれ覚えたの?」
「あ?」
「餃子も美味しかったー野菜以外はみんな美味しい!」
野菜あっての旨味だと言うことを、どこかで教えてやりたいが一筋縄ではいかないだろう。
「ばぁさんに教わった」
「おばあちゃん?」
計都の口から出ると、すべてが珍しいもののように聞こえるから不思議だった。
首を傾げる計都に、溜め息一つ吐いて寄越す。
「父親はいないし、母親も仕事でいなかったからな。ばぁさんが面倒見てくれた」
なかなかにいろいろ楽しい人だったせいか、寂しい思いをした記憶はあまりないが、厳しくされた記憶だけはしっかりある。
「料理と、掃除と、行儀と、野菜の作り方、あとは おい、手は膝だ」
注意すると慌てて手が膝の上に戻る。
「そう、ケンカのやり方とか」
「ふぇ」
「翔希もな」
「ショウちゃんも 」と呟いて、計都は笑ってるのかよくわからないふにゃりとした顔をした。
「右手が使えるようになったら箸の練習するからな」
「なんで!?」
「行儀ってのは身に着けておいて損はないからだ。食事の仕方が汚いってだけで評価は下がるからな?そうならないようにちゃんと持つ練習するぞ」
つまらない話なのか、薄めの唇をつんと突き出した計都は話を聞いているのか聞いてないのか。
ともかく、身についてしまえば意識することも荷物にもならないのだから、駄目なものではない。
「やだ」
「ちゃんと教えてやるから」
菜箸で上げをひっくり返していると、その手を計都の視線が追いかける。
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