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第71話

「恭司!」 「やっと出た、さっきの誰?何?」 「ごめ  ほんとごめん。勝手に出るなんて思わなくて」  問いかけの返事ではないことにイラついたが、ゴトゴトと音がしている部分を見ると、翔希の方はまだ落ち着いてないんだろう。 「もういいや。じゃあまた」 「や、ちょっと待て!用があったんだろ?」  用  は確かにあったが、何往復かして運んでもいい話だと気が付いた。 「うん、まぁでも取込み中みたいだし大したことじゃないから」 「すぐ行くから!待てって!」  兄の背後から、先程の男が名前を呼んでいるのが聞こえたが、翔希はそれを振り切ったらしい。 「この時間なら家か?店か?」 「家で」  「すぐに行くから」と電話を切ってしまった翔希に「気を付けて」と言いそびれて妙な沈黙を作ってしまった。  がりがりと頭を掻き、部屋から出てこない計都を呼ぶために向こうの部屋へと足を進めた。  扉を開けて、電気をつけなくても計都がいないことは一瞬で分かった。  入ってすぐにあるベッドの上が真っ平だったからだ。 「  え?」  思わず駆け込むと、ベッドの足元のところにふわふわとした髪が見えた。  寝相が悪くて落ちたと思ってやりたかったが、ベッドに乱れがない以上、そう言う事なんだろう。  服が入った大きめのカバンにのしかかるようにして目を閉じている計都は、寒かったのかジャケットも羽織っている。  寒ければ布団に入ればいいだけだし、たまたまここで寝こけたのだとしても毛布はすぐそこだ。  以前の通りでないことを祈りながら、チェストの取っ手を指の先だけで引っ張る。  ────カラ  やはり何も入れられていない空虚さは……  思いのほか衝撃で……  吸った息を吐かなきゃいけないことに気づくのに時間がかかった。  振り返った計都は、このまま玄関から出て行ける姿だ。  なぜ?  置いてくれと言ったのに、すぐ出て行ける状態でいるのはどうしてだ?

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