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第73話
「来客のところに停めてあるから運んで。その間に計都君診るから」
ギプスの腕をちょいちょいと突いて、鍵をこちらに投げて寄越して奥へと二人で行ってしまった。
一緒に行って具合を聞きたい気もあったが、開店時間を思うとそう言った余裕もなさそうで。しかたなく稲荷寿司の入った袋を持ち上げた。
荷物が最後になった時、部屋に向けて声をかけた。
「最後だけど、出れるか?」
返事はすぐに返るものと思っていたがしばらく待っても返ってこない。リビングまで行って見渡すも誰もおらず、計都の部屋の前まで行った。
一応ノックをと拳を作った時、小さなしゃくりが耳に飛び込んできた。
「 っ」
誰のものかなんて考えなくともわかる。
「おい!」
作った拳で叩くように開けると、びっくりしてこちらに顔を向ける兄と、その兄にしがみついている計都が見えた。
かっと頭に血が上りそうだったのを寸でで堪えられたのは、翔希に睨まれたからだった。
「なん なにしてんだ 」
一瞬、二人がアイコンタクトを交わしたのを、確かに見た。
ざわざわと嫌な感じが足元から這い上がってくるような感覚に、足が縫い付けられて動けない。
「恭司からも説得してくれよ」
首にしがみついたままぷるぷると首を振る計都を引き離せず、困った表情の翔希は続ける。
「なに 」
「ギプスを半分に切りたいんだけど」
「それの、何が?」
思いの他低い声が出たのに自身で驚いた。
びっくりしたのは計都も同じだったようで、しぶしぶ翔希から離れて項垂れる。
「カッターが怖いんだそうだ」
そんなくだらない理由で目の縁を赤くしていたのかと思うと、どっと脱力感を感じる。
額に手を当てて呻きたいのを堪え、落ち着くために緩く息を吐く。
「 それじゃあ、もう腕は治ったんだな?」
ギプスが取れると言うことはそう言う事なんだろう。
唐突に告げられたこの生活の終わりに、脈拍が跳ねあがる。
「いや、まだかな」
「 」
「まだ完全についてるわけじゃないし。リハビリとかもあるし」
知らない間に止まっていた息を吐き出し、小さく頷く。
ほっとした気になったのは……
「なんにせよ昼間に一度病院に来てくれるか?」
「わかった。明日にでも連れていく」
項垂れたままの計都の表情を伺うことはできなかった。
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