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第75話
「 怒って、謝って、許される、必要があったんじゃないかなって」
「 」
「圭吾も、店長に」
当人がいないところで何を話したとしても意味はないと、切り捨てることができなかったのは、第三者から見たらお互いに加害者で被害者だと言われたからだろうか?
「 ケイが謝る必要は 」
「肉体的な傷だけが、傷じゃないですよ」
これは、彼なりの慰めなんだろう。
どこか冷めたような、一歩下がって物を見ているような壱は珍しい。
「まぁ、俺の意見ってことで」
切れ長な目が弧を描く。
「そう言えば、シマキ君との生活はどうですか?」
「え 」
「もうずいぶん経ちますけど」
ずいぶん と言われて思わず指を折った。
一本、二本と数えているうちに、過ごしやすかった日が肌寒くなっているのに気が付いた。
「 もう、そんなに経ったかな」
毎日のドタバタですっかり時間感覚がなくなっていたようだ。
「楽しいと忘れちゃいますよね」
楽しい?
何かと世話を焼いてくれと言われる日々は大変だ。
けれど、
「 そうだな」
楽しい、な。
計都と壱はすっかり打ち解けているようで、二人でわいわいと話しているのを見ると友人か親友のようで、見ていて微笑ましい。
「俺はこっちのをもらって行くからな」
ぽんぽんと叩かれる入れ物は、一人暮らしには多い量だ。
「持っていけばいいけど 一人にしては多くないか?」
「 」
ひくっと動いた指先は、何か隠したいことがあるんだろう。
「看護師には振られたって言ってなかったか?」
「 面倒見てる研修医がいるんだ」
往生際悪く顔を赤くして俯くのは、新しい恋人ができたと言っているようなものなのを気づかないのか。
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