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第76話
なんだかんだ、昔から彼女のいた兄貴のことだから心配はしてないが……
「恋人に弟の作ったものを食わすってどうなんだ?」
「うまけりゃいいだろ」
しれっと答えた言葉の中に、恋人を否定する言葉がなかったのは今は聞かなかったことにしてやろう。
「 で、話変わるけど。早めに、計都君を連れて来いよ」
「そんなに?」
「 」
言いにくそうに計都の方に視線をやり、おしゃべりに夢中なのを確認してから小さく早口で言ってくる。
「いい状態じゃない」
仮にも医者がそう言うのは……
ひやりとした心中が顔色に出たのか、翔希は背中を叩いてきた。
「心配しすぎ」
慰めだったのだろうが、一般人が言う言葉よりも重いそれに鉛を飲み込んだような気分になった。
ソファーにごろごろと転がる計都に注意したいのをぐっと堪え、できる限り穏便にこちらへ手招いた。
「なぁに?」
当然のように膝の上に座る計都は確かに、最初の頃よりも重い感じがする。
太ったと言うよりは以前より健康的になったと言った方が正しくて、顔色もいいし、まめに手入れいているせいか毛艶もよくなっている。
「 」
ピンクの頭を掴んでぐるぐると掻き混ぜると、子供のような声を上げて身を捩って逃げる、それを捕まえて首を撫ぜて肩を撫ぜて背中に手をやった。
腰を軽く押さえてみるが痛がる反応もないし、手を滑らせて太腿からふくらはぎを触っても何もない。
小さな貝のような足の爪が少し伸びているような気がするが、それくらいだ。
左手を取って肘を曲げ伸ばしさせて動きを見、オレのものより幾分小さい手に視線をやる。
「ちっさいな」
柔らかい掌を揉んでやりながら指先を確認し、右の腕に手をやった。
「テン チョ くすぐったい!」
今更に身を捩って膝から降りようとする計都の腰を抱きしめた。
「大人しくしてろ」
固い声だ。
これでは怖がらせるとはわかっているのに……
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