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第77話

「右腕を出して」  項垂れた計都の右肩から肘にかけて触れ、ギプスの上を通って掌に触れた。  指先は綺麗だが、ギプスに近いところは荒れている。皮膚がかさついてお世辞にも良い状態だとは思えない。  特に痛がる様子もないし、なんだかんだと薬もしっかり飲んでいたが……  指を一本ずつ、優しく擦りながら曲げさせてみるが体が強張ると言ったことはない。   「痛みは?」 「大丈夫」 「あるかないかで」 「ないよ」  指先がむくんでいるとか、血色が悪いと言うこともなさそうだ。  感じる体温も高いと言うわけでもない。  何が、いい状態じゃない  のか。  素人判断はするべきじゃないのはわかってはいるが、 「吐き気とかあるか?」 「妊娠はしてないよ」 「調子の悪いところは?」 「ちょっと溜まり気味」  問題はなさそうだ。  ぶぅーっと膨れている頬を突いてやると機嫌よさげにふにゃふにゃ笑うのだから、翔希の言葉がよく分からなくなってくる。 「足の爪切っとくか」 「うん」  抱き上げてソファーに下ろしてやり、ガラスやすりを取りに行く。 「それ苦手ぇ……自分は爪切りで切っちゃうくせに」 「爪が薄いんだから我慢しろ」  削る感触がオレも苦手だったが、計都の爪はオレの物と違って薄くて割れやすい。  綺麗に整えるにはこれが一番だった。 「気にしないのに」 「割れて痛い思いするのは自分だろ」  ぽやっとした笑顔で、くすぐったそうなのを堪えてる顔は面白くて、釣られて口の端が上がるのが分かる。  ふわふわしたピンクと、小さな笑い声と、穏やかなこの時間が  心地よくてたまらなかった。

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