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第78話

 翔希に電話すると、職員用駐車場へ来るようにと指示を受けてそちらに向かう。普段立ち入ることのないそこに行くのは落ち着かず、計都もそうなのか歩調は遅れがちだった。  辺りをそわそわと見回した後、とうとう立ち止まってしまった計都に駆け寄り、左手を繋いだ。 「ほら」 「  行きたくない」  病院と言うところに対して構えてしまうのはわかる。 「診るのは翔希だし、痛いことはさせないから」  びくっと体が跳ねたのは、やはりそれが心配だったのか? 「オレがさせないから」  頭を撫でてやると俯いてしまい、その表情はうかがえない。  ただ、応えるように一歩動き出してくれた。   「うーそーつーきーっ!!」  よく、親に「注射は痛くないから」と言われた子供が言ってるセリフだなと、華奢な体を押さえつけながら思う。 「動くなっ」 「いやぁっ 」 「動かないよー」  確かに皮膚のすぐ傍にあるものを回転式のカッターで切られたら、身構えてしまうだろう。  ギチギチと音を立てるギプスはまだまだ取れそうにない。 「動かないでよー」  口調とは裏腹に翔希の目は真剣だ。  医者が使うものなのだろうから、皮膚は傷つけないと思いたいが……  見ている分にはそのまま怪我をしてしまうんじゃないかと心配になってくる。 「テンチョの嘘つきぃぃぃっ」  涙目の計都に責められるが、怖い思いはしただろうが痛い思いはしていないはずだ。  嘘は言っていない。 「  見てたからわかるとは思うけど、ギプスは半分にしてある。今後はそれを添えて包帯で固定しておいてくれ」 「風呂は?」 「構わない。その時は取ってもらったらいい。あと……湯に浸けながら肘を動かしてくれ、無理じゃない範囲で」  ちらりと見えたが、右腕は左腕よりも幾分細い感じがした。動かさないと筋肉が落ちていくと言うが、こうも違うものなのだろうか? 「  右腕は   ちゃんと使えるのか?」 「動かすようになったらすぐに戻るよ」  若いし と告げられてしまったら、そう言うものなんだと納得するしかない。 「あと    」  あとどれくらいで完治するのか、今まで聞けなかったことを聞こうとしたができなかった。  いつでも聞くことができたそれを、故意に聞かなかったことに思い至って言葉が喉に貼り付く。 「   ちょっと外に出ててくれる?」  聴診器を取り出した兄に、これ以上何を診るのかと問いかけようとしたが、視線で拒否された。 「ここ使ってるのバレたらまずいから、自販機の方に行っておいてくれ」  受付もしなければ看護師もいない時点でだいぶまずいことはわかっている。  自分のしたことでこれ以上翔希の足を引っ張ることはできない、素直に頷いて出て行くのがいいのだろうが……

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