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第79話
「ショウちゃんならへーきだよ」
オレの視線が気にづいたらしい計都は、いつものえくぼの笑顔で背中を押してきた。
「すぐ呼ぶよ」
さらにそう言われてしまえば外に出るしかなく、仕方なしに近くの自販機の傍まできたが、落ち着かずに出てきた部屋の方を振り返った。
病院内は静かだが、ここまで離れてしまえば扉越しでも声は聞こえない。
だからと言って、扉の前で貼り付くこともできない。
以前に言っていた「いい状態じゃない」に関することなのか、想像するしかないのがもどかしかった。
何もすることがないまま腕時計に目をやるも、時間は遅々として進まないことに苛立つだけだ。
気を紛らわすために窓の外に視線をやったが、それが慰めになるとは思えなかった。
軽い扉の開く音と、足音。
「待たせたな」
声をかけられて振り返ると、ふわふわとした頭は項垂れてしまっている。
「何があった? 計都?」
ぽんぽんと翔希に肩を叩かれて、計都は顔を上げるが目の縁が赤い。
「な に 」
駆け寄って顎を掴んで上を向かせるが、視線はこちらを見ず、いやいやと身を捩って翔希の後ろに隠れてしまった。
明らかに今までの態度との違いに、困惑して兄を見やる。
「いや、悪いことじゃないんだ」
「は?」
剣呑だ。
声に計都は怯えている。
「以前は痩せすぎだったって話」
へらへらと笑う翔希に殴りかかってやりたい気になったが、ぐっと堪えて続きを促した。
「で?」
「ショックなんだとさ」
「 は、ぁ?」
出会った当初の肋骨の浮いた体なんかより、今の健康的になった方が断然いい。
「女じゃあるまいし、なんだそれ」
「だってテンチョ、細い方がいいでしょ」
「はぁ?」
もじもじと翔希の白衣に隠れる計都は、どうやってもオレから隠れたいらしい。
「別にがりがりがいいってわけじゃないぞ?」
「う?」
翔希に隠れる姿が面白くなくて、白衣を捲って計都を引きずり出す。
しっかり腰を抱えてやると暴れても無駄だと思ったのか、むくれながら項垂れた。
「だって 」
「しっかり食べて健康的ならそれが一番」
ひょいと抱き上げてやるが、まだまだ軽い。
「ほら、な。まだ全然だ」
鼻先を突いてやるとへにゃと笑う。
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