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第80話
「あー……その、あんまり過保護にしないように。家の中の移動も抱えてそうだし」
んん と咳き込んでしまうのは、そう言うことがあるからで。
見透かされた気まずさを誤魔化すために計都を下ろした。
「じゃあ今日はもう帰っていいぞ」
ひらひらと振られる手に頷き、計都にも礼を言うように促して手を繋いで歩き出す。
翔希の言葉が結局何だったのか気にかかりはしたが、今日の様子を見るに問題はなかったのだろう。
その安堵は、手の中の温もりと同じくらいに嬉しかった。
ふと目が覚めて枕元の時計を見ているといつも起きる時間よりもだいぶ早い。二度寝しても十分な時間だったが、喉の渇きを覚えたので仕方なく起き上がった。
加湿器の必要な季節になってきたのだと思い、計都の分も含めて今年は新しいものを買おうかと悩みながらキッチンに行くと、リビングのソファーの上で丸まっている計都を見つけた。
「 ?」
寝る前には部屋に入る姿を見ているので、ここにいたまま寝てしまったと言うことではない。
寝ぼけたか?
丸まって寝ているところを見ると寒いんだろう。
「 」
足音を立てないように計都の部屋へ向かい、扉を開けるとやはり拭いきれない違和感に立ちすくんだ。
整えられたまま動いていない掛布団を見て、息が詰まる。
振り返った先にあるチェストには、やはり何も入っていないのだろうと、手を伸ばしている途中で開けるのをやめた。
腕が治れば、彼は出て行ってしまうのかと、震える心が呟く。
それが本望だったはずなのに、ほっとできなくなったのはいつからだろうか。
リビングに戻って見下ろした計都の寝顔は、寝相に反して穏やかでよく寝入っているようだった。
腕の中で寝がえりを打たれ、それに引きずられるようにして目が覚めた。けれど二度寝の気持ちよさと温かさの心地よさに勝てず、ぎゅうっとそれを引き寄せてもう少し寝ようとした。
「えぇ……なんでぇ…… 」
「うるさい。もうちょっと寝れるだろ」
気だるげに見上げた時計を睨みつけてから、もう一度枕に頭を沈める。
「なんで俺、テンチョと寝てんの!?」
「寒かったから」
「えっ?」
「オレが」
「テンチョが!?」
「暴れるな。寒いだろ」
まだジタバタしていたが、手の力を緩めずにいたら諦めたのか大人しくなった。
「 いつも、あそこで寝てたのか?」
腕の中にあった肩が跳ねて肯定を伝えてくる。
「あの布団は気に入らないか?」
「 うぅん」
「部屋が気に入らないか?」
「 うぅん」
そうか と口の中で呟く。
鼓動だけではそれが事実かどうかわからない。
「次からはここで寝ろ」
「ふぇ どうして」
「 温かいから」
ぴったりと触れ合って眠る幸せさが、じんと胸に沁みた。
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