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第81話

 壱に計都が部屋を使っていないと相談した時、冷たい目で睨み返された。 「 え   」  持っているアイスピックが凶器に見えて、思わずそろそろと距離を取ってしまう。 「あの、  理由、わか   ?」  眇めた目は何を見ているのか……  心の底まで見透かされそうで、居心地悪く手元のガラスコップに視線を落とす。 「小さい時、自分がされて嫌なことはやっちゃいけませんって教わりませんでした?」  祖母からも、小学校でも散々聞いたことがある言葉だった。  いい年して改めて言われることではないと思っていたが、こうして言われると重い言葉だ。  自分がされて嫌なこと。  ゾクッと背筋に冷たい物が走る。 「…………」 「シマキ君、服の趣味が両極端ですよね」  あとは自分で気づけとばかりに、「掃除してきます」と言って壱は向こうに行ってしまった。  後姿を見送って、手の中の薄いガラスの器に視線を戻す。  服……  計都の持ち物は少なくて、自分がもともと持っていた物と、オレが押し付けた物 しかない。  オレが、押し付けた。  そう言えば、赤いシャツを  見ていない?  汚れ物が増えたから洗濯頻度が上がって、見かける機会がないだけだと思っていた。  ぞわぞわと悪寒が這い上がる。  アレは、圭吾の趣味の物だ。  使われなかったあの部屋も、そう   だ。  息苦しさに襟元を引っ張る。    自分がされた、こと  かつての恋人を追い求められて……その幻影が常に付き纏った。  オレは計都に、何を見ていた? 「テンチョー?」  大きな声に思わず手の中のグラスが滑った。  薄いガラスで作られたそれは、止める間もなく床に落ちて派手な音を立てて砕け散った。  チカチカと間接照明の鈍い明りを反射して光る破片に、幾つもの自分が映って……その中の自分はどんな顔をしているのか。

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