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第82話
「あっ」
「大丈夫!?」
カウンターの向こうから心配顔でこちらを覗き込んでくる計都に、今までと変わったところは見当たらない。
自分が何度も経験しているからか、箒を取ってくるとバタバタと駆けだした。
計都に対してオレは……
受け取った箒と塵取りでガラスを片付け、壱に後を頼んで計都を控室へと呼び込んだ。
狭い部屋の中で、向かい合うのではなく、自分の膝の上に座るように促した。
店でこう言った親密な接触を禁じているせいか、計都はそわそわと落ち着かない。
「テンチョ、どしたの?」
どうした は自分が自分に聞きたかった。
こうしてオレは何をどうしたいのか……
「 右手の具合、どうだ」
「 っ 普通」
外に出る時には念のためにギプスを添えてはいたが、家の中ではそれも外す時間も増え、曲げ伸ばしをしているのも右手を使っているのも見かける。
完全回復ではないだろうが、回復しているのは間違いなかった。
「そうか」
「 」
「言っておかなきゃと思って」
計都の表情は曖昧で、こちらを見もしないままそわそわと体を揺すっている。
「こっち向いてくれ」
「 ぇー……」
抗議を上げるが、指先で顎を誘導してやるとあっさりと顔を見せた。
頬を両手で掴んで逃げられないようにしてから、深呼吸を一つ。
「計都、すなまかった」
口から出てしまえば短い言葉だ。
これでは何も伝わらないだろうと、慌てて言葉の続きを探した。
「腕のこと、大怪我だ。今からでも警察に言いたければ言えばいいし、慰謝料がいるのなら払う。計都の気の済む方法を教えて欲しい」
「 え 」
「計都が、許してくれる方法を知りたい」
いや、許せないと返されるなら、許してもらうまで自分なりの謝罪をするだけなのだが……
「俺、怒ってないよ?」
キョトンとした声に拍子抜けして、釣られて肩の力も抜けた。
「腕は前から痛かったし、テンチョは病院にも連れて行ってくれたし、すごく優しくしてくれた。だからありがとーってのはあるけど、怒るとか そう言ったのはないかなぁ」
「でも腕を折ったのはオレだ」
「あー……治っちゃったら痛いのって忘れちゃうよね」
まだ頼りない右手でシャドーボクシングをして見せるが、無理をしているようではなさそうだった。
「でも そだなぁ」
困った表情で計都の首が傾ぐ。
「 もういいよ。許して上げる」
穏やかな微笑は初めて見た。
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