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第83話

 普段の茶化したような笑顔ではなく、優しくて柔らかな笑いだった。  「許して上げる」の言葉が落ちてきた心に、小さな波が生まれたのを感じた。  計都の起こしたその波がくすぐったくて、目の前の細い体にしがみつく。 「計都っ」  華奢な体は力を籠めすぎると折れそうで、それに気づいて慌てて力を緩めてから頬に手を添わせる。 「  許してくれて、ありがとう」  謝罪を受け入れてもらえる、いや、謝罪を聞いてもらうことができると言うのは、止めていた呼吸が動き出すような感覚がする。  初めて肺の奥まで深呼吸できたような感動に、不覚にも涙が零れた。 「テンチョ、大丈夫?俺が泣かした?」  冷たい指先が目元を拭う。  こちらを覗き込む計都の顔に、あれだけ見えていた計都の面影はどこにもなくて。 「ふ、ふふ。こうやって見るとケイに全然似てないな」  口を突いて出た本心に何度も頷いた。  逃げようとする計都を、逃がさず捕まえるのにもだいぶ慣れてきた。 「風呂、行くぞ」  壁ドンの要領で逃げられないようにし、圧し掛かるようにして「な?」「な!?」と脅すとやっと観念するのだ。  ソファーで服を脱がしてから、抱きかかえて風呂場へと連れていく。この間翔希に注意されたことを思い出しもするが、計都が嫌がって逃げる場合があるのでこれが一番効率がよかった。 「やぁだぁっ」 「うるせ」  抱え上げた計都の尻をぺちんと叩くと一瞬だけ大人しくなる。  湯船の湯は先程確認したから熱くはないはずだ。そっと足から浸けてやると、やっと観念したのかしぶしぶと大人しくなった。 「ほら、腕出して」  つーんと拗ねて突き出された唇に軽くキスして宥めすかし、右手の肘を湯の中でゆっくりと曲げ伸ばしさせる。  これが痛いらしくて嫌がり、逃げ惑うのだ。 「我慢しろって」  撫でて、宥めて、甘やかして、 「痛いんだもん」 「分かってるって」  それでも毎日繰り返しているお陰で腕はだいぶ動くようになった。 「いい感じに動くな」  嬉し気な返事が返るものとばかり思っていたが、計都は水面を見たまま動かない。

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