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第84話
「 どうした?」
「 うぅん、なんでもない」
のぼせたかとも思ったがそうでもない。
「テンチョ」
「ん?」
細い腕が伸ばされ、伸び上がるように口づけをねだってくる。
小さく啄んで返してから、湯船から抱き上げる。
「一緒に入んないの?」
「あとでな」
「ちゅーはしてくれるのに、えっちしないの?」
「そう、だな」
左手と違い、細く頼りない右手を見つめる。
「 ぶぅ」
性欲があるかないかで言うならば、ある。
それも強烈に。
正直に言って計都の容姿はオレの好みのど真ん中だし、二人でゆったりと過ごす時間は好きだし、こうやって世話を焼くのもまんざらでもない。
下からじぃっと見詰められれば、落ち着かない気分になってくる。
目の前で食べていいよと言われているのに食らいつけない理由は……
圭吾とのことにけりが付いてないからだ。
心の整理がつくまでは……
以前に壱に言われた言葉が繰り返し繰り返し、頭の中に浮かんだ。
脱色で傷んだ髪にオイルをつけ、丁寧に梳いてやる。
ふわふわな感触も良かったが、さらさらと指の間を抜けていく感触も気持ちがいい。
艶の出た髪を何度も掬い上げて、指先で弄んで堪能する。
「そう言えば、手持ちの服じゃもう寒いだろう?」
「そうだねぇ」
「また服を見に行くか」
今度は計都の好みの物を。
それから、家具も替えてしまおう。
それから……と考えていると、形のよいアーモンド形の目がじっとこちらを見ていた。
「ねぇ 」
「どうした?」
「 テンチョ 俺、髪の毛黒くした方がいい?」
「は?」
慣れてしまうと、フラミンゴ色のこの髪も悪くないと思えるのだから、人間とは現金なものだ。
「ピアスも、開けて?」
「急にどうした?」
ギプスを切るのですら怖がっていたのに、どう言った心境の変化だろう?
「うん? うぅん なんとなくー」
「ね?」と膝の上でえくぼを見せられると、そう言うものなのかと思ってしまう。
ピンク色の髪の下にある耳を改めて見てみると、形のいい耳たぶだ。傷をつけるのは勿体なくて、そこに唇を寄せた。
「ひゃっ」
「別にいいんじゃないかな?」
ちゅちゅと繰り返してやると面白いように体が跳ねる。
「うぅ!? うっ!」
両耳を押さえて逃げ出そうとした計都を捕まえて、もう一度ちゅっと耳にキスすると、泣きそうな目でこちらを見上げてくる。
「耳が弱いのか!」
「意地悪しないで!」
悪かったと謝って、油断したところをもう一度ちゅっと口づけた。
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