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第89話
事あるごとに、こちらをじっと見ていたアーモンド型の瞳を思い出し、心当たりにはっとなった。
「あと一つは、えくぼができる笑顔は信じるな」
「え……」
「表情が動かないように口を引き結ぶ癖でできる」
あれは計都の、トレードマークのようなものだと思っていた。
けれどあれは……
「さて、君の考えは間違えていない、行きたまえ」
「 」
それは、笑顔を浮かべた際の状況を言っているのか、それとも最初に目的地とした場所が正解だと言うことなのだろうか?
礼を言うべきかどうか迷っていると、
「そんなことはどうでもいい、行きなさい」
そう顎をしゃくられた。
言い返せる言葉が見つからず、頭だけを下げて踵を返す。老人の言う通りなのだとしたら、この道の先に計都がいるはずだ。
木々の茂った角を曲がると、古びた動物園の看板が見えてきて……
入場切符を買う時に、余程必死な顔をしていたのか係員が驚いていたが、そんなことはどうでもよかった。
走ったせいで息が苦しい。
目当ての場所は奥にあって、普段走り慣れない足は怠くて一度止まると動けなくなりそうだった。
「 」
風が出てきたせいでピンクの髪が掻き混ぜられてふわふわに見える。
ぼんやりとした視線の先には同じ色の生き物が突っ立っていた。
「計都」
必要以上に大げさに飛び上がったように見えたのは、フラミンゴを見つめる無表情が一変したせいだ。
驚いたせいか丸くなった目に、オレが映っているのが見えた。
「 テンチョ。どしたの?」
なんてことないような返事は足元の荷物がなければ、ただちょっと思いついてここにきたと言ってしまえそうな雰囲気だった。
けれど、必要以上に踏み込むと逃げてしまいそうな気配がしていて、仕方なく足を止めた。
「探してた」
「えー?俺のこと恋しくなっちゃったー?」
へらりと笑ってできるえくぼは……
先程の老人の言葉を信じるならば、取り繕った笑顔のはずだ。
「だから迎えに来た」
「 え、と」
えくぼは消えて、視線が彷徨いだす。
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