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第90話

 足元の砂利を見てから、フラミンゴを見て、曖昧な表情のまま首を傾げた。 「どしたの?」 「帰るぞ」  手を伸ばすといつも飛びついてきたはずなのに、今は両手を後ろに回したままへらへらと笑ったままで。 「ケーキもちゃんと買ってきてあるんだ」 「んー……」  ふふ  とやはり曖昧に笑う。  困ったようなそれが、本音なのか…… 「ねぇテンチョ、知ってる?」  まだ細い右手がゆっくり上がって、檻に閉じ込められた動かないフラミンゴを指さした。  そんなことでは動じない鳥は、ややあってからゆっくりと動き出す。 「フラミンゴは、赤色を与えてやらないあの色じゃないんだよ」  フラミンゴの動きに合わせて視線が動いて、小さな雛に何かを口移しで食べさせているのを確認してから、オレに戻ってくる。 「以前、言ってたな」 「うん」  あの時はもっと間の抜けたような説明だった。  もしかしたら、計都の口調として正しいのはこちらなのかもしれない。  そうだとしたら、こいつはどれだけオレの前で自分を偽っていたのか。 「人間はどうやったらその人になれると思う?」  表情の無くなった計都の雰囲気は、今までのお調子者と言った風ではなくなり、立ち入れない空気を纏ってオレを拒絶する。 「それは、その  成長だろ」 「うん、成長。でもそれは周りの人がそうなるように育ててくれるから、その人になれるんだよ」  じゃあその周りがいなかったら? 「テンチョのフラミンゴミルクはおばあちゃんからのお料理に行儀だったり、ショウちゃんの手助けだったりするよね」  確かに、今のオレを形作る中でその二人の存在は大きい、もし二人がいなけ、オレは料理に興味を持たないだろうし、そうすればバーを開くこともなかったはずだ。  いつもオレを引っ張ってくれた兄は、進路に人生の考えに、大きな影響を与えてくれた。

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