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第91話

 そう言った部分では、あの人たちはオレを形作ってくれた。 「ねぇ  俺をフラミンゴにしてくれるミルクは誰がくれるんだろう。俺は俺でありたいだけなのに、みんな違う俺が欲しいんだ。ショウちゃんは弟が欲しかったし、壱は喋れる友人が欲しかった。ペットが欲しかった人もいるし、テンチョみたいに誰かにしたがる人もいた」  自分の浅はかな考えが見透かされていた気まずさに、口をはさめないまま頷いた。  猫のような双眸がこちらを見据える。 「オレずっと見てたよ。この人にはどんな人が必要なのかずっと観察してた。だってその人の必要な人になれば傍に置いてくれるもん」  沈み始めた太陽が眩しいのか、計都の目が緩く細められ、くしゃくしゃと顔が歪む。 「  どうして、誰かの何かじゃないとダメなんだ?」 「どうして  ?   だって、この世界に俺の居場所なんてないんだもん。誰かが欲しがった物だったり、捨てていった場所に成り代わるしか、俺に居場所はないんだもん。要らなくなる時までは、そこに居ていいから」  これまで生きてきた工程の何を知っているわけじゃない。  けれどその生き方は、虚しい。 「   ただの計都じゃ ダメなのか?」  野菜が嫌いで、熱いものが食べられなくて、ココアが好きで、派手な服が好きで、原色の家具が好きで……  物ぐさで、世話を焼かれるのが好きで、不器用、  そんな計都じゃダメなのか? 「……」 「計都でいいだろ」 「……」 「オレの、計都で」  ひくっと肩が跳ねた。 「それじゃ、ダメか?」 「だって……テンチョにはケイさんがいるでしょ。手紙、出したんでしょ」  そしたら、俺のいる場所なくなっちゃう……と呟いて曖昧な表情で笑った。 「きっと帰ってきてくれるよ。そしたらテンチョ幸せになれるか  」  語尾は消えて、夕日に小さく目尻が光る。 「さようならって言った相手が、どうやって幸せにしてくれるんだ」 「だってテンチョものすごく幸せそうな顔してた」  幸せそう?  それはそうだ。 「これからの、計都との生活を考えてたんだから  当たり前だろう?」  もう一度伸ばした手に、反応はない。 「俺、頭ピンクだし、ピアスもしてないし、細くもないし、ケイさんみたいに落ち着いてないよ?」 「圭吾に戻って欲しいわけじゃない」 「ケイさんみたいに行儀がいいわけじゃないし、ケイさんみたいに趣味がいいわけでもない」  圭吾と比較したそのすべてが筒抜けていたのだと、恥じ入る気持ちで顔が熱くなる。 「テンチョの欲しいケイさんには俺、なれないから」  ごめんね、と続けて足元の荷物を持ち上げるが、物が詰まっているそれは重いのか、勢いによろよろとよたついた。 「 っ!何やってんだ!」  よりにもよって右手でそれを持ち上げる姿に、咄嗟に駆け寄ってその腕からカバンをもぎ取る。 「   大丈夫。腕、もうへーきだから」 「翔希も無理すんなって言ってただろうが!」  取り返そうと伸ばされる手を避けて睨みつけると、困ったような顔にえくぼができる。

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