92 / 101
第91話
そう言った部分では、あの人たちはオレを形作ってくれた。
「ねぇ 俺をフラミンゴにしてくれるミルクは誰がくれるんだろう。俺は俺でありたいだけなのに、みんな違う俺が欲しいんだ。ショウちゃんは弟が欲しかったし、壱は喋れる友人が欲しかった。ペットが欲しかった人もいるし、テンチョみたいに誰かにしたがる人もいた」
自分の浅はかな考えが見透かされていた気まずさに、口をはさめないまま頷いた。
猫のような双眸がこちらを見据える。
「オレずっと見てたよ。この人にはどんな人が必要なのかずっと観察してた。だってその人の必要な人になれば傍に置いてくれるもん」
沈み始めた太陽が眩しいのか、計都の目が緩く細められ、くしゃくしゃと顔が歪む。
「 どうして、誰かの何かじゃないとダメなんだ?」
「どうして ? だって、この世界に俺の居場所なんてないんだもん。誰かが欲しがった物だったり、捨てていった場所に成り代わるしか、俺に居場所はないんだもん。要らなくなる時までは、そこに居ていいから」
これまで生きてきた工程の何を知っているわけじゃない。
けれどその生き方は、虚しい。
「 ただの計都じゃ ダメなのか?」
野菜が嫌いで、熱いものが食べられなくて、ココアが好きで、派手な服が好きで、原色の家具が好きで……
物ぐさで、世話を焼かれるのが好きで、不器用、
そんな計都じゃダメなのか?
「……」
「計都でいいだろ」
「……」
「オレの、計都で」
ひくっと肩が跳ねた。
「それじゃ、ダメか?」
「だって……テンチョにはケイさんがいるでしょ。手紙、出したんでしょ」
そしたら、俺のいる場所なくなっちゃう……と呟いて曖昧な表情で笑った。
「きっと帰ってきてくれるよ。そしたらテンチョ幸せになれるか 」
語尾は消えて、夕日に小さく目尻が光る。
「さようならって言った相手が、どうやって幸せにしてくれるんだ」
「だってテンチョものすごく幸せそうな顔してた」
幸せそう?
それはそうだ。
「これからの、計都との生活を考えてたんだから 当たり前だろう?」
もう一度伸ばした手に、反応はない。
「俺、頭ピンクだし、ピアスもしてないし、細くもないし、ケイさんみたいに落ち着いてないよ?」
「圭吾に戻って欲しいわけじゃない」
「ケイさんみたいに行儀がいいわけじゃないし、ケイさんみたいに趣味がいいわけでもない」
圭吾と比較したそのすべてが筒抜けていたのだと、恥じ入る気持ちで顔が熱くなる。
「テンチョの欲しいケイさんには俺、なれないから」
ごめんね、と続けて足元の荷物を持ち上げるが、物が詰まっているそれは重いのか、勢いによろよろとよたついた。
「 っ!何やってんだ!」
よりにもよって右手でそれを持ち上げる姿に、咄嗟に駆け寄ってその腕からカバンをもぎ取る。
「 大丈夫。腕、もうへーきだから」
「翔希も無理すんなって言ってただろうが!」
取り返そうと伸ばされる手を避けて睨みつけると、困ったような顔にえくぼができる。
ともだちにシェアしよう!

