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第92話
「腕はもうずーっと前に良くなってるよ」
「は?」
「俺がショウちゃんに無理言って、ずーっとギプスしてもらってたの。治ったら……出て行かなきゃだから 」
は?と言う言葉も出なかった。
唖然としたオレの腕からカバンを取ろうとした計都を躱し、左手を掴んで歩き出す。
「 わかった。兄貴はグルなんだな」
「協力してくれただけだもん」
「とりあえず帰るぞ」
「 ふぇ 」
逃げようと身を引くが、計都の非力な体で逃げられるほどやわじゃない。
正面切った腕力勝負なら負ける気はしなかった。
「引きずられるのと、担がれるのと、自分で歩くのならどれがいいか選べ」
「 ぇ、お姫様抱っこ?」
へらへらとえくぼの浮く微妙な笑い顔は、無茶ぶりすればオレが呆れて諦めるとでも思っているのか。
「わかった」
そんなことが無茶と思われているのも癪だ。
「ぇえええええっ」
「叫ぶのやめろ。これ以上目立ってどうする」
ピンク頭に、お姫様抱っこに、悲鳴まで上げられたら通り過ぎる全員の注目は間違いなしだった。
案の定な周りの視線や指差す子供に耐えかねてか、フラミンゴの檻からそう離れないうちに、計都はしおしおと小さくなって「降りる」と言い出した。
「降ろさない」
「なんで!?」
「罰」
「なんの!?」
なんの?
「 うちにいたいのに出ていったから」
「……だって、俺いたら迷惑だろ」
「今更」
「いまさら!?」
本当に今更だ。
「計都がいて心地いいって思うんだから、今更だろ」
ふにゃふにゃと曖昧な表情は、嬉しそうなのか泣きそうなのか、オレにも老人のように人を読めたらわかったのだろうが、嬉しいのだと思って言葉を続けた。
「オレがフラミンゴにしてやる」
風に煽られて頬をくすぐるピンクの髪が、可愛いな と思うのは黙っていた。
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